新開隼人にナンパされる

 「いっしょに飲まない?」爆音が響くダンスフロアー片目に友達とふたりでモヒート飲んでたら声かけられるの早くも3組目、結構みんな餓えてんな。金曜夜だしな。そこにはスーツ着た20代半ばくらいの男性二人組赤毛と黒髪、比較的見た目はまともそうだけど、少なくともさっきのふた組よりはチャラすぎない感じ。友達が脚を組み替えたので、彼らは合格。私はテーブルに出していた鏡をバッグにしまう。っていうのが今日友達と決めたルールで、声かけられてまあいい感じだったらこういう仕草して持って帰ろうぜっていう。うん、今日の獲物決定!クラブで声かけてくるの、ヤリモク以外の何があるんだかよくわからないけど、まあこっちならありかな。ありだな。赤毛のほう。かっこいいし。ていうか半分こっちもそういう目的でもおっけーかなー?ってくらいで飲むのが楽しかったりして。


 赤毛じゃないほうが「酒とってくるけど何か飲む?」って聞いてくれたので、「ジンジャーモヒートがいいな。あたしも行こうか」と行くそぶりは見せておくが赤毛が「いいよ、座ってな」だって。おそらくどっちがどっちに行くかを話すんだろう、と思いつつ、こちらも友達とどっちがどっちに行くかを決めてしまおう。「あたし黒髪がいい、ななくさは?」「赤毛」「おっけ」カウンターは空いていて、すぐに二人が戻ってきた。ていうか、赤毛の人、どこかで見たことあるんだよな。私たちが座っていたテーブルの両隣を陣取る二人は、それぞれ私の隣に赤毛、友達の隣に黒髪。なるほど話がはやい。


「えっとね、こっちが隼人で、俺がマコトね」
「ななくさとなずなでーす!」


喉が渇いていたので、買ってきてもらったモヒートをぐいっと煽ると、隼人さんが豪快だな、と笑った。やっぱりこの人どっかで見たことある。


「あの、隼人さん、なんか有名人だったりします?もしくはどっかで会ったりしましたっけ、めっちゃ見た事あるようなないような」
「でてるんだなーこれが!」
私が訊けば、黒髪がここぞとばかりに反応する。言っちゃ悪いがイケメンな友達の親友で盛り上げ役な三枚目タイプ。
「えっすごーい!なんだろ、チョキチョキとか?いそう!」
「ぶー、なずなちゃん外れでーす。こいつすげーんだぜ、自転車で山登るの」
「あ、自転車競技部の新開隼人だ」


ななくさちゃん大当たりー!という黒髪(もはや名前なんだっけ感)に苦笑する隼人さん。おめさんよく知ってるな、って笑うけど、高校時代の元彼が箱学の自転車競技部で、しかしレギュラー入りは叶わなかったため応援にも行けずに別れてしまったが、元彼の同級生もしくは先輩後輩にあたるんじゃないだろうか。そもそも学校違っていたからあまり知らないけれど、よく雑誌やら写真やらを見せてもらったから既視感があったのかもしれない。


私のお尻に触れるか触れないかくらいの絶妙な位置で、隼人さんの腕が伸びていて、さっき会ったばかりの男女にしては近すぎる距離にある整った顔に、体の中心がきゅんとする。やっぱりかっこいいなこの人。厚めの唇とか、ちょっと垂れ目なところとか、どストライク。ちゅーしたら気持ちよさそうだな、指も太すぎず、骨ばってて男の人の手、って感じ。「見すぎ、照れるよ」「見られ慣れてるくせにー」お返しと言わんばかりに隼人さんが私の目をじっと見つめるので、やばいイケメン怖い、すぐそらしてしまう。「ななくさちゃんの負けー」ほっぺたつねられた。


してやられた感が悔しくて、ふとなずなを見やると、黒髪とすきなタイプの話で盛り上がっている。水差しちゃ悪いな。ていうかきっと持ち帰る気満々だ。黒髪じゃなくて、なずなが。ロックオンしてる。きっと黒髪今日は眠れないぞ。なむなむ。そして明日か明後日か、どんな感じだったかを私にしゃべるぞあの子は。主に下半身について。かわいそうに。と思いつつ、にやけそうになる口元をグラスで隠す。


「あ、この曲すき。ていうか隼人さん、踊らないんですか」
「うん、俺見て楽しむ派だから」
「ふうん」


何杯目のモヒートかわからないけど、あっという間に氷だけになってしまった。「隼人さんも何か飲みます?」「ていうか敬語いらないよ、くすぐったいし」「おっけ、何飲む?」「俺も行くよ」ひとりじゃまた声かけられそうだし?って笑ってるけど、その辺にいる男より何倍もかっこいいけどわかってる?ていうか女の子たちからの視線浴びまくってるの気づいてるけど気づいてないふりしてるんだろうな。悪いやつだ。「えっとー、ラむ、」「ウーロンハイ2つね」「え、」「飲み過ぎ」手渡されるウーロンハイ。見た目からしてチャラそうだけど、やっぱりチャラいな・・・いやちゃらくないのか・・・チャラかったらここで度数高いやつ頼むよな・・・?やっぱりイケメン怖いわ。


「あれ、なずないなくなっちゃった」
「消えたな、入ってからずっとかわいいかわいい言ってたからあいつ」


席に戻れば二人の姿はなく。二件目からのホテル行くなあれは、むしろホテル直行か、と思ったけど早すぎない? そんなに意気投合しちゃった? 残された私と隼人さんはとりあえず腰掛けて、ウーロンハイを呷る。ゆっくり飲めよ、と笑われる。あー、今日どうしようかな。「ななくさちゃん酒強いね」「まあまあ」「嘘つけ、おめさん絶対強いだろ」「んー、なんか酔っちゃったみたい」語尾にハートマークつけて隼人さんの肩にもたれかかると、しれっと腰を抱かれる。やっぱりチャラい。


「よっぱらいは介抱してあげないといけねーな?」
「そうだね、とびっきり優しくしてね」


こっちもこっちで意気投合、というかゴールは同じところであることがお互いわかったので、話が早い。とりあえず相性いいことを祈って、あとでトイレでなずなにLINEしよ。光と音楽とざわめきを背に、いざゆかんラブホテル。




2015.6.11
へいちょーちゃんへ!