9歳 / 第三班C
副題:M i:V(ミッション・インポッシンブル×3)
シータ1と比べてデルタ1の報告は長く、論調の回りくどさと貧相な語彙力も相まってノートに整理するのに小一時間かかった。
「君なんでそんなに国語力がないの?」
「なんでって言われても、ボクもキミの一部なんだけど?」
コゼツと皮肉った言い争いをしながら、デルタ1も土に潜って帰っていく。
彼から聞いた話を纏めると、
A穢土転生について(デルタ1)
・穢土転生の術、会得難易度推定B(禁術として封印済の為、正式にはランク外)
・千手扉間の開発した術の中で禁術指定されているものは全て火影室に隣接した書庫にある。常時監視なし、但し火影室の天井にはヒルゼンが直々に指名した暗部が常に2名潜伏している。
・火影室の隣の書庫は鍵がかかっており、鍵は常にヒルゼンが持っている。
・書庫に忍び込めるような入り口は見晴らしの良い壁についた窓のみ。
・猿飛ヒルゼンの一日のタイムスケジュール
08:00…火影室に来て暗部に任務を出す
30…任務受付場所(詰所)に移動
(D〜Bレベルの任務の指示又は報告)
12:00…詰所を出て昼食へ
12:30…火影室(または執務室)へ戻る
(A、Sレベルの任務の指示又は報告)
15:00…三時のおやつ
19:00…火影室を出て執務室へ
22:00…帰宅
(尚このTSが守られるのは一週間に1度。ヒルゼンは2日に一度は夜を執務室か仮眠室で過ごし深夜に任務終了報告を受けそのまま会議が始まることもままある。その時は暗部が警備のために火影邸に張り付いている)
「火影様ちゃんと規則正しい生活してよ……老人を働かせすぎだよ…」
「忍び込むなら夜だけど、ヒルゼンが執務室で作業してるときと、暗部が警備しているときと、どっちがバレにくいのかな」
「どっちもやだけど……はーーーそうだねー…」
B千手柱間の個人情報物質
1、暗部の研究施設(ヒルゼンの管理下だが、何故かダンゾウの部下も地中より監視している)
2、里抜けした大蛇丸が所持
3、墓?
「なんでダンゾウも監視してんだよ。ヒルゼン気づけ」
「ダンゾウの監視要員は根の油目一族のなんだけど、ムカデやヤスデ、ケラ、線虫なんかを使っていて視野360度だから厄介だ。ボクらは土の中に溶け込めるけど、土の中から出た瞬間に彼らに捕捉されるからね」
「そうなんだ。ゴキブリコロリ持ってかなきゃね」
カブトや大蛇丸曰く、穢土転生に必要不可欠らしい”個人情報物質”。わたしのぼや〜んとしたイメージではつまりDNAなんだけど、DNA検査に必要なもの=生きた細胞がなきゃ無理ってことだから、60年だか70年だか昔の人のDNA検査となると凄く難易度高い気がする。
千手の人間は土葬だから、密閉されていればもしかしたら……と思わんでもないが、希望的観測に過ぎる。まず、自分は物化選択だから高校の生物Uまでの知識しかないし、その朧げな記憶すら折り重なった9年間の新しい地層の下に埋まってしまっているので確かなことが分からない以上、研究所とやらに忍び込んで柱間細胞を入手するのが最適解であるように思える。
まあ、柱間細胞のことを研究し続けた名残により、扉間に比べたら確実に入手できることは救いだ。しかし、確実に在ると分かっていても、それを入手するのが難しい。ヒルゼンは相当厳重にそれらを管理しているだろうし、ダンゾウの目もあるし、かと言って大蛇丸に接触するのは自殺行為とくれば、なんかもう既にピンチである。
「その研究施設ってどこにあるの?」
「木の葉忍術研究所B棟の地下らしいよ……昔は、情報部から繋がる隠し通路もあったけど、この前の九尾襲来で地下道が半壊してきり直してないから、正面玄関以外今は入り口はない」
「うーん」
柱間細胞の研究は柱間の死後もずっと続けられていたが、適合者が出ずに犠牲者が多かったため、打ち切りになったという悲しい過去がある。火影命令により中止させられたはずのそれを続ける為に、ダンゾウと大蛇丸は相当厳重な警戒が必要だったはずだ。
しかし、幸い、大蛇丸が里を抜けた後である。今、それらの研究は全てヒルゼンの管理下に置かれ、柱間細胞含む研究材料は重量な資料として保管されるのみになっている。公に警備が敷かれている今と、”隠されていた頃”とどちらがより接近しにくいのか分からないが、気分的には今の方が楽だ。
しかし、ダンゾウがそこを監視しているというのは気になる。ダンゾウの右腕に柱間細胞を移植したのは大蛇丸だと思っているので、既にその手術は終わった後だろうから、何故依然として柱間細胞を監視する必要があるんだろう。
……あっ、うちは一族のイザナギを警戒しているのか?確かにわたしも、何故うちは一族はクーデターにイザナギを使用しなかったんだろうと不思議に思っていたのだ。仮に木の葉側が柱間細胞を厳重に管理していて”イザナギを遣えなかった”のなら納得である。だが、その納得にはとある正確な前提条件が必要で――実はこれ、『原作ナルト矛盾困ったランキングベスト3』に入るお話しなのだ。
”イザナギ実行に必要な条件は何か”。
ダンゾウは確か”千手の力とうちはの力の両方を手に入れた者にだけ云々”と言っていた。しかし、その後エドテンイタチの”イザナミ”説明やマダラの復活ストーリーから考えてみると、イザナギに必要なのは”うちは一族の写輪眼片方の失明”のみである線が濃厚である。
ナルトはいかんせん連載期間が長く、多分後付けもそこそこあるので多少の矛盾は仕方がない。これは個人的な見解だが、キシモトセンセーは、人物の感情の起伏や想いの強さが行動に結びつく過程を描写することを何より重視していて、世界設定の詰めや理屈はその次に来るタイプと見える。よって、例えばカカシは千鳥と螺旋丸どっちを先に習得したのかとか、鬼鮫と会話したのはオビトなのかマダラが他に持っていた別の駒なのかとか、そしてさっきのイザナギ実行に必要な条件とか、物語の序盤と終盤で若干の食い違いらしきものが見える。
だが、世界として成立している以上真実はいつも一つ。この際原作で少し不思議なことになっている設定も色々明らかにしていきたいところだ。
とりあえず、わたしの基本的解釈は『設定の勝ちあいが出てきたときは、物語終盤に近い情報が正しい』としているので、イザナギにおいても『イザナギはチャクラを多く消費するので、特にうちは一族ではなかったダンゾウは柱間細胞でブーストかけないとチャクラ消費に耐えられなかった』と受け取っている。
「うーん……、…だんぞーさんの監視はまあおいとく。まずはシータシリーズの方からやろ。終わったら火影邸に忍び込む計画を立てて、その全部が上手くいったら柱間細胞奪取って感じで。三本立て」
「分かった」
箇条書きにしたMI(ミッションインポッシブル)シリーズを眺めながらはぁと重いため息が出た。ヒルゼンとダンゾウにはなるべく近づきたくなかったけど、結局避けては通れないようだ。二度の大戦を生き延びた百戦錬磨の老獪を相手取るなんて、一筋縄じゃいかない予感がヒシヒシと胃を締め付けてきてストレスがマッハである。
原作の中で何か忘れている知識があるかもしれないし、頭の中に眠っている記憶の中に現状打開のヒントがあるといいな〜と思いつつ、その日の作戦会議は終了した。
下忍上がって初めての任務は猛獣退治だった。里の近くの農村がしばしば熊に襲われるので捕獲してほしいとの要請を受けたDランク任務。
うちは始まって以来の天才イタチ君をこんな雑用に使うとは水無月ユウキやりおると思いながら、わたしは熊の痕跡を見つけて気を引く役目を仰せつかり、見事全うした。熊の脳天に向けて適切な打撃を与えるイタチは腹チラが素晴らしかったですさすが俺の子だ。
「よし、今日の任務はこれで終了だ!二人とも、初任務お疲れさま。報酬は一週間後振り込まれるから、好きに使えよ!」
「ウィース」
「はい」
「………」
上から、わたし、ヨウジ君、イタチだ。お分かりいただけるだろうか、この空気。
熊は鼻づらが丸くてもっこりしていて、静かにしていれば結構可愛かった。
「あ、イタチ!」
解散した後、すぐに瞬身で消えそうだったイタチを呼び止めた。
「お姉ちゃんに怪我のこと伝えてくれて、ありがとう。凄く心配してた……」
「いや、偶然父上と出かけた先が、ヤクミさんの家だっただけだ」
「ンンー、でも、最近お父さんと仲良くないんじゃなかったっけ」
「お前にそんな話をしたか?」
いつかと同じようなやり取りをして話に花を咲かせようとしたが、イタチにその気はないようで本題が終わったと判断するやいなややはり一瞬でどこかに消えてしまった。任務でもないのに忍者みたいに素早く動かなくたってええやんけ。
そして、動くまで気づかなかった油目ヨウジがその場を離れたことで、彼がまだ居たことに気付いた。ヨウジ君は無口だし、イタチの監視任務が彼の本当の仕事だと知っているけど、ちゃんとわたしとも会話してくれるし、彼の小さなお友達を指に載せると心なしか顔がほっこり綻ぶので、結構好きだ。
ただ、コゼツたちと会話しているところまで監視されちゃたまらないので、いつも念入りに虫がいないかチェックしてからコゼツたちに出てきてもらっている。原作ではあまり目立たない油目一族だったが、強力な情報収集役を担っていることを改めて実感した。