9歳 捲土重来B
Side::カカシ

 火の国は世界的にも特に多様な植生を持つ緑に恵まれた国であるが、木ノ葉の里の周囲は常緑低樹が多く一年中景色が変わらない。里の目印になるものがないということが第一次忍界大戦の折には役立って、当時は民間人に対する犠牲を軽んじる風潮も後押しして火の国の至る所にトラップを仕掛けていたそうだ。すぐに、戦渦に巻き込まれた国民から抗議が殺到して条例が整備され、里も教育を徹底するようになったが、トラップを仕掛けた忍が既に死んでいたり自分でもどこに仕掛けたか覚えていない、なんてことも多かったので、今でもごくたまに昔の仕掛けの名残や死体、防具などを見かけることがある。
 念入りの下準備と調整のあと、濃い青空が広がる朝、部隊“ビャクシン”は里を出立した。創設以来変わらぬ青々とした森の中を駆け抜けていくと、白く鈴なりになったイヌショウマや赤紫色の小さなツリフネソウなどが視界の隅をちらついた。
 紅葉はなくても、野の草花はすっかり秋だ。

「ビャクシンって、なんでしょうね」

 走りながらテンゾウ――作戦中のコードネム《キノエ》――が横に来た。ビャクシンは今回のカカシ班の作戦名である。

「さあ……三代目はよく動物の名前を付けるけど」
「樹だな」

 後ろからタルミ《ツチノト》が答えた。

「ビャクシン属という樹木の一種だ。ニイタカビャクシンは灰青色の葉が特徴的な雷の国の高山でよくみられる低木で、火の国でもたまに見かけるカイヅカイブキやネズと同じ属になる」
「へえ。先輩、樹に詳しいんですね」
「盆栽にたまに使われんだよ……祖父の趣味でね」
「ホムラ様の?」

 風祭モミジ《カノエ》が反応した。風祭一族は水戸門一族と縁が深いから顔見知りなのだろう、もしかするとモミジとタルミは“表”でも親交があるかもな、とカカシは思った。夕顔は特に会話に入ってこなかったが、この中では最も暗部として経験が浅いので緊張しているのが伝わってきた。
 火の国を出て霜の国を通り、雷の国までは忍の足で三日かかった。国境から雲隠れの里までは通常なら一日だが、監視の目を避けて里に近づくためには更に時間を見ておく必要がある。カカシらは霧の国まで休まず走り続け、そこで一度野宿した。

「任務で一緒になるのは二度目だな」
「!」

 携帯食を齧る夕顔に声をかけると、彼女は少し背を伸ばして「はい、ご一緒できて光栄です」としっかりした口調で言った。
 微かにほほ笑む艶のある唇、燕子花に似た鮮やかな長い髪が白砂の肌に映えて生け花のようだ。カカシはたまに先輩たちと遊郭に行くが、元々正規の忍や暗部にも美しい女は多い。彼女は、美人に慣れているカカシから見てもなお美しい新人だった。

「三日月の舞を使えるんだって?アレは写輪眼じゃコピーできない純粋な抜刀術だ、きっと財産になる」
「ありがとうございます。披露する機会がないことを祈っています」
「まーね」
「――感知終わり、警戒良し。“子二つ零六十五”、“丑二つ二零”にそれぞれ一部隊潜んでいます」
「よし」

 水面に顔を付けていたモミジが手ぬぐいで顔を拭きながら報告した。モミジは水遁と土遁による攻撃を得意とするが、土に穴を掘って水を溜めてそこに顔を付けることで遥か遠くまで詳細な感知を行うこともできる。
 加えて、ツチノトの忍雀が空から警戒する二重感知体制で、なるべく会敵しないよう雷の国に侵入する。万が一雲の忍に見つかってもカカシの忍犬は手数を増やし陽動を取るのに最適であるし、テンゾウの木遁分身は数多ある分身忍術のなかでも飛びぬけて看破されにくく破壊されるまで時間を稼ぐことができる。仮に雲の忍――あるいは味方の誰かが致命的な手傷を負ってしまっても、夕顔の医療忍術で死者を出すことを防げる。会敵を避けつつ雲まで着いたら、カカシの忍犬が土の中を潜って結界を突破し、里内で五人を口寄せする予定だ。
 忍犬はチャクラを纏っているので間違いなく結界班に気づかれるが、人数まではわからないのを逆手にとり三手に分かれて追手を分散し、カカシとテンゾウチームが日向ヒザシの隔離場所に向かう手筈だ。三代目から聞いた情報通りであればヒザシは里の最北・狼剣山の医療研究施設にいる。

「不寝番は通例どおりでいいな」
「お願いします」

 暗部において、不寝番は部隊の年齢が高い順と決まっている。今夜は前半がツチノト、後半がモミジの交代制だ。カカシらは手早く食事を済ませ眠りについた。



Side::奈良シカク

 阿吽の門から続く大通りはぐねぐねと里の中心をとおって南下し、里南西部で運河と並列して三つに別れる。運河と並んだ辺りは繁華街として飲食店が多く立ち並んでおり、どの店もカウンターより二階の窓から河が見える座敷席が人気でしばしばデートスポットとしても機能する。
 とはいえ今夜は雨、窓は閉められ細い雨粒で滲むガラスからは河のライトアップもあまり見えない。普段より人気がまばらな二階席、襖で区切られた角席で三名の忍が酒を舐めていた。

「茄子の煮びたしに芋茎(ずいき)のきんぴらでございます」

 店員が置いた皿をみて、いのいちが「おい」と言ってぎょっとした。

「誰だ芋茎なんて頼んだの」
「おれだけど?」
「チョウザおまえ……戦時中を思い出すよ、この味」

 第三次忍界大戦は第二次が終わって十年もせずに始まったので、前の戦争で荒らされた土地が整う暇がなかった。他国と比べて肥沃な土地に恵まれ食糧難を経験したことのない木ノ葉の里でも火の国から十分な物的支援が得られず、そのときよく食卓を彩ったのがこの芋茎である。

「なんで?うまいじゃん」
「いや、そりゃうめぇけどよ……」

 シカクもうんざりした顔で笑って「メニューを見るたびに、これまだ売ってんだなって思ってたぜ」と言いつつ箸でつまむ。芋や南瓜の茎を茹でて灰汁を取り、出汁を加えて甘しょっぱく煮絡めてあるのでえぐみもなく、獅子唐がアクセントになって確かに旨い。チョウザは、「うまいものはいつ食べてもうまい!そうだろ?」と言って自分用の小鉢を大きな掌で掴んで口に流しいれた。

「こうやって新しい食文化が築かれていくんだ。オレたちは今それを間近で経験している……」
「オメーは楽しそうでいいなマジで」
「シカクも見習ったらどうだ」
「オレだって別にしんどかねえよ。めんどくせーだけでな」

 冷え込む雨の日には熱燗が胃に染みる。シカクは懐かしの味を肴にお猪口を傾け、さんまの塩焼きにおろしとユズを乗せ口に運んだ。この店は大食い可能焼肉店ばかり通うチョウザが珍しくオススメする庶民的な居酒屋とあって、確かに一品一品が旨い。
 少し経つと二階が混んできて、襖を挟んだすぐ隣の席に賑やかな家族連れが着席した。いのいちはちらりと店内に視線を泳がせ、「あー……、どうも最近里が穏やかじゃないな」とこぼした。

「妙な胸騒ぎがするよ」
「胸騒ぎどころじゃないだろう。下手したら戦争だ」チョウザは目にもとまらぬ速さでカシューナッツ入り酢豚を空にすると通路側に更を重ねた。
「下手しねえようにオレたちが行ったんだろ。雷影様にも気持ちは伝わってるはずだ」
「だが、三代目の仰っていた情報が本当なら……」

 先日から始まった日向一族への一斉捜査は今日も粛々と続いている。シカクが下忍だったころ同期だった三つ年上の日向ナツ(現在は第一線を退き、日向の女中として働いていると聞いている)が警務署に入っていくのを見たばかりだし、内部捜査が終わった日向宗家の周囲は妙に静かだ。
 ただ、いのいちの言う“胸騒ぎ”がそういうことを言っているわけじゃないことは長年の付き合いでわかった。今回の件だけじゃなく戦争が終わってからずっとそうだ。シカクら世代が主戦力となった戦争を経験して初めての経験する戦後――戦後というのはこういうものなんだな、と日常の至る所で感じる日々は、終わったからといって、すぐに気楽になれるわけじゃないのだということを知らしめてくる。連日耳に入る訃報がなくなった代わりに、戦争を理由に抑えつけていたなにかが漏れ出して排水溝から漂ってくるような、その匂いが木ノ葉舞う風にのって時折鼻につくような……そういう重たさだ。
 消えた大蛇丸と突如出現した神隠しの地、先の戦争の方がよっぽど犠牲者が多かったのに何故か皆が口にする“九尾のガキ”、定期総会で頻繁に上がる警務部隊からの意見書、増え続ける暗部登用、和平を唱える口で少女を誘拐する雲隠れ、そして今回の日向一族の裏切り疑惑……。
 先の戦争は、第二次忍界大戦から間を置かずはじまったせいでどの里でも忍の教育が間に合わなかった。シカクは今年で二十九になるが、十七で初めて送られた激戦地では八歳の子どもを殺したし、色任務につかされた十歳の少女が首を掻ききられ全裸で床で臥すのも見た。終戦後の追悼式典では、まだ十かそこらの幼い子どもの遺影が山のように飾られ、白い花に埋もれて埋葬される様はこの世の光景とは思えなかった。
――それを思い出すたびに、アレよりマシだ、ああならないために生きるのだと気持ちを新たにしている。

「だが、ヒザシさんが生きていたのは良かったとオレは思うよ」

 いのいちは眉根を緩めて言った。

「命あっての物種だ。目を奪われたのは、本人にとっては辛いものだろうが、まだ幼い子どももいる。なんとか無事に解決してほしいが」
「難しいこと言うなあ、いのいちは」

 チョウザは気楽な性格だが楽観的ではない。「オレは正直、里には帰ってこない気がするね。三代目は裏で奪還計画とか立ててるのかもしれないけど、里に帰ってきてもしんどいだけじゃない?」と言って肘をつく。シカクは髭を擦った。

「というか、オレは話がよくわからなかったんだが……結局なんでヒザシさんは生きてるんだ?それに、なんでまだ雲隠れにいるんだ?人質と交換されなかったのは何故なんだ」
「まっとうに考えればヒアシさんではなかったから、ということだろうな」
「いや、違うだろ」

 二人が「え?そうなの?」という顔で首を傾げるのでシカクはため息をついて箸を取り皿に置いた。

「いいか?まず、雲にとって『ヒザシが生きている』『白眼を入手した』という情報を木ノ葉に悟られるのは痛手だ。戦争したくてたまらねえっつーならともかく、普通ならそれを隠しておきたいはずだし、何事もなければ木ノ葉だって「殺したはずのヒザシが生きている気がしてきた、調べよう」だなんて思い至らない。出かけた後に戸締りしたか不安になるのとはワケが違う」
「うん、わかる」
「じゃあ何故三代目は雲に密偵を放とうだなんて――まあ暗部の連中がやったんだろうが――思ったかっていやあ、そりゃ雲の『別の組織に人質を云々』なんつー言い訳が突然浮上したからだ」
「うん」
「つまりキノコが掴んだ情報ってのがまず、雲が意図的に流した噂なんだよ。本当にヒザシが生きてるってことを秘匿しておきたいなら、雲の内情を調査しようと思うようなネタをわざわざ流さねえだろ。んな適当な休憩所で小耳に入るようなずさんな情報管理はしない」
「確かに」

 いのいちが真剣な目で頷いた。いのいちは一見頭脳派に見える端正な顔だち――この中で一番モテたのはいのいちだ。今もそうだが若い頃は女と見間違うほど美しい少年だった――だが、存外脳筋で天然なところがある。

「ついでに木ノ葉が暗部を潜り込ませてからヒザシ生存バレが露見すんのも早すぎる。オレらが雲に出向いてから二ヵ月弱だぞ?せめて一年は踏ん張れるだろ、いくら隠し事が下手な雲でもな」
「……ということは、雲は日向ヒザシが生きていると木ノ葉に知らせたかった……?」
「オレはその線を睨んでる」
「なんで素直に生きてるって言わない」
「木ノ葉に日向一族にいる裏切り者を摘発させたいとか……?いや、それじゃあ仮に日向と雲が取引していたとして雲が困るだけだな」
「――さあな。オレらにはそこまで説明されなかった、わかるのはそれだけだ」

 雲は本気で戦争したいが木ノ葉側から和平条約を破って欲しい……だとしても、じゃあ逆になんでそんな条約を締結しようとしたんだって話になる。雲隠れ内部でタカ派とハト派がもめていて、ハト派が条約締結を押し切ったがタカ派がそれを……とかいうことも想像できるが、雲隠れの里は昔から『全員タカ派』みたいなところがあるので考えにくい。
 そもそも今回雲が木ノ葉と手を結ぶことにした理由が、その立地に由る。雷の国は大陸北東端に位置する為火の国を通らなければ陸続きで土・風に渡ることができず、東の海は水の国と海で接しているが断崖絶壁であり常に暴風が吹いているので歴史的に不可侵状態に陥ることが多かった。ゆえに戦争では必然的に木ノ葉が雲の行く手を阻むことが多く、因縁が深い。
 雲隠れの里は技術力の向上に貪欲なので、さすがにそろそろ他の三国とも交流を深めたい。一方木ノ葉は戦を終えて軍縮に切り替えたいが、土地の全方向を敵に囲まれていては踏み切れない。雲隠れにとって木ノ葉は数年前まで世界トップの軍事力を誇っていた大国だ、そこがわざわざ「火の国東側の防衛費を削りたい、技術提供もするからお互い奪い合っていた土地と捕虜をを返還し和平を結んでくれないか」と言って来たら乗るしかない。
 数十年前に頓挫した条約を、しかも雲にとって有利な条件で締結できたのだ、雲隠れの里もそれを半年で反故にしたいとは思っていないだろう。

「何者かが雲と木ノ葉を争わせようとしている……考えられるのはそんくらいだな」

 その何者かが、ヨルという組織であるのも間違いない。シカクも聞いたことがないが、忍世界の夜明けを待ち望む潮目の時代に『夜』とはまた皮肉なものだ。

「ま!水面下では面倒くせーことが起きてんだろうよ。結局俺らは戦争になったら戦う、任務が来たら行く、それだけだ」
「そこは三代目に期待するしかない。でも、きっとあの方はやってくれるさ」
「ああ、その通りだ!」

 徳利を持ち上げたいのいちに酌をしてもらい、互いに目を合わせて乾杯した。

「「「三代目に!」」」

 ――礎となった尊い命に。
  平和を臨むすべての忍に。



「えええ〜〜〜?!それじゃ、うちらヨルって名前になっちゃったの?!」

 ノノウが掴んでいる雲と木ノ葉についての話は概ねサエたちの予想通りだったが、1つ決定的に異なる部分があった。

「ちゃんと血判状に“夜の葦”って書いたのに……」
「サエがあのとき名乗り忘れるから〜」
「じゃあ葦はわたしのコードネームに?」
――そう聞いている。
「えーん」

 身体からぐったりと力が抜けて、わたしは背中の後ろに両手を置いてふんぞり返った。茣蓙の上にたった一枚の薄い毛布しか敷いていない床は冷たく、お尻がゴリゴリ痛む。先程までは感じていなかったはずだが、緊張感をもって聞いていた話の最後にギャグみたいな落とし穴が待ち構えていたせいで集中力が切れてしまった。
 暁が洞窟の中の謎のアジトにソファだけ置いて集会場みたいなのを作っていた理由がわかるというものだ。彼ら、お尻を守っていたのだな。

「夜かあ……ヨル、系統としては暁と同じだけど短くてちょっと変じゃない?せめて三文字か四文字くらいは欲しかった」
「例えば?」
「夜……ヨル……ヨルシカとか」
「夜しかぁ??変なの」

 わたしはお尻をさすりながら立ち上がり、少し臀部を休める為に焚火の周囲を歩きながら話した。

「はあ……でもその名前で広まっちゃったなら訂正できないよねえ」
――なにか思い入れが?
「いえ、そういうわけではないんですけど……」
「いいだろ名前なんて。それより作戦立てようよ“葦”」
「葦?!コードネームみたいに呼ばないで!」

 わたしを葦と読んだことの何が面白かったのか知らないが、コゼツは水を得た魚のように生き生きとし始め、「サエが葦ならボクなんにしようかな〜」とケラケラ笑いだした。

「夜の韮にしろ」
「夜のゼツ!夜ゼツ」
「まんまじゃん」

 白ゼツみたいなノリで言うな。ノノウさんも《夜の眼鏡……》とか呟いてテレパシーを飛ばしてくるな。聞こえてますよ!

「じゃあ、やっぱり雲と木ノ葉は今一触即発な状態なんですね」
――そのようね。白眼を渡すつもりがなかったからこそ成立した取引が、雲隠れがそれを入手した時点で崩れてしまった。木ノ葉は里内部では犯人捜し、里の外では雲隠れから日向ヒザシと白眼を取り戻そうとしている。風の噂程度だけれど、岩隠れに入ってきた情報では木ノ葉はまだ雲へ差し向けた暗部を引き下がらせてないそうよ。
「それって、条約的にはどうなんですか?立派な領土侵犯と主権侵害……なのでは……」
――そうだ。既に木ノ葉は和平条約を一方的に破っている、長引けば戦争だろうし、そうでなくてもしばらく木ノ葉は里の外に神経を割かなければならない。サエさんの目論見通りに行っている。
「でも、でも……わたしは本当に戦争になって欲しいわけじゃなくて、戦争にならないギリギリのところで丸く収まってほしかったんです」

 目的の為とはいえ、やはり自分のせいで人が死ぬのはいやだし、そもそも自分のせいじゃなくても人が死ぬのはいやである。仮に戦争にはならなくても人死にや流血はなるべく避けたいのが本音だ。
 しかし、ノノウはじっとわたしを見つめて首を振った。

――恐らく戦争にはならない……上層部がなんとしてもそれを阻止するでしょう。暗部や根の命をどれだけ犠牲にしようとも、必ず。

 もしかしたら、わたしはとんでもないことをしてしまったのかもしれないと、そのときやっと思い至った。木ノ葉の里を治める者たちは、戦争を起こさないように政治をしているのではない、“戦争しないという決定を死守するために”政治をしている。それこそ齢十三の子どもに一族郎党皆殺しにさせようと、暗部や“根”の子どもたちをどれだけ犠牲にしようと、多く見積もってもたった百に満たない命――戦争しないことで救える命と比べれば十分小さく、ゼロに近似できると考えて。

――この状況だからこそやれることがある。柱間細胞の入手を今こそ進めましょう。

 動揺と迷いを見透かすようにノノウは言った。

――あなたの作戦が適切かどうかはまだ考える余地がある。でも、今すぐそれを進めなければならない理由がある、ということはわかりますか?
「え、えー……」
「盗みに入れば侵入者の正体がサエではないと思わせることができるから」
――そうです。その左目の傷より皆の注意をひくような新たな事件を起こし、東雲サエにかけられた容疑を解き、限りなくシロに戻さなければいけない。

 ノノウは包帯の上から唇を掻き目をうっそりと細めた。

――わたしが木ノ葉に侵入し柱間細胞を盗みます。コゼツくんの力を借りればチャクラは感知できず、前回の侵入者と同一人物であるフリができる。そこで薬師ノノウの痕跡を敢えて残すことができれば、あなたへついた監視の目も消える。サエさん、あなたはこれからも里の中で自由自在に動く必要がある。
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