9歳 額当てD
「コッッッッワ!!!!!」
「だから言っただろ〜?!」

 帰宅して母親に促されるままにお風呂に入って、「夕飯お部屋で食べたい!」と我儘言って自室に飯を持ち込んで、コゼツの前で半泣きした。
 やはりω-11はわたしを助けようとしたらしい。あのとき、後ろでわたしの額当てを結びながらカカシが写輪眼を出すのが見えて、異変を伝える為やむなく顔を出した。ああすれば、わたしがコゼツを”ひっこめる”ためにカカシの側から離れると思ったのだそうだ。もぐら叩きじゃねえんだぞ(でもグッジョブ!!)

「一応、ボクもカカシから見えないような位置に出たつもりだけど……」とイレブンは不安げに言う。
「正直、”何か”は見られたと思う。写輪眼は動体視力がレベル100万とかになるような特殊な眼だから……」

 サスケとの回想に出てきたイタチが、岩の後ろの的にまで手裏剣を当てていたのも写輪眼のなせる業だ。チャクラを電波のように使って物を回り込んで感知しているとしか思えない芸当だが、イタチにできるのならカカシにもあのときわたしが”何か”に覆い被さったのが見えただろう。
 額に手を当ててため息をついた。夕飯の茄子の味噌汁がやけに美味しく感じる。

「森の中に隠れて声を掛ければよかったのに。使えないなあ」

 コゼツが言うと、ω-11は「咄嗟だったから……声出すだけじゃ、カカシが無視して無理矢理眼を合わせるかもって思って……」と言って口ごもった。

「まあまあ、この子は今日が初任務だったわけだし」
「サエの監視は重大任務だから、もっとベテランにさせた方がいいんだけど……どの個体も仕事に慣れてきてて逆に入れ替えに向かないんだよね。ポジション固定じゃない方が良かったかも」

 ジョブローテーション制度は社員に嫌がられるぞ。

「ボクやれるよ。大体、ボクらいつも情報共有してるんだから経験なんてあんまり関係ないだろ」
「……イレブン、おまえは今後常にサエの中に入ってて」
「わかった」
「え?わたしの意向は?」

 ω-11は心なしか落ち込んだ面持ちで返事をして、わたしの中に入った。

「なにコゼツ〜リーダーじゃん。勝手にわたしの中に入れとか出ろとか命令しないでくんない?」
「いやだね、こいつらは元々ボクの手駒だ」

 コゼツはニヤニヤ笑っている。クソ、てっきり株式会社東雲の社員だと思っていたが派遣だったわけか……派遣元のコゼツの業務命令が優先されている。

「イレブンくん、上司にいじめられたら言うんだよ…!」
「別に虐めてないけどなあ?新人教育さ」

 コゼツは大きな植物図鑑をお腹に抱えてまた笑った。こいつらとはもう色々な経験を積んでしまったし、トイレとか生理とか他色々なキャッキャウフフが筒抜けになるのは諦めよう。



Side::はたけカカシ

 生肉が一晩で腐ってしまいそうな蒸し暑い夜だった。
 風通しの良い夏服でも吸収しきれない汗が肌の上で乾き、べたべたと不快な粘着性を纏っている。カカシは首を振り、張り付く後れ毛を鬱陶しく振り払いながら火影邸に飛び込んだ。

 火影邸の地下一階には、火影や火影補佐をはじめとする火影組織役員(火影邸)、里の行政・立法を執り行う行政官、情報部・警務部・司法部をはじめとした各部門代表者、御意見番などが集う会議室がある。そこでは国際問題や大臣関係のほか、高難易度の任務の処理や、里内部で起こる扱いが難しい問題について話し合うために日夜有識者を含めて会議が行われている。
 その部屋の更に下、地下二階には火影の第二執務室があり、しばしばそこで暗部が任務を報告する。地上階の執務室は日当たりがよく風通しも良いが、いかんせん人通りが多すぎる。それに、第二執務室には火影だけでなく、ご意見番と根の長も集う。

「カカシです」
「――おお、入れ」

 地下二階の天井、つまり地下一階の床下から降り立つと、やはりその日も火影と他三人が集っていた。

「カカシが一体何の報告だ。しばらく休暇を与えていると聞いたが?」
「雲との一件以来四ヵ月ほど働き詰めだったからな。今日は例の、B棟で起きた侵入者騒ぎの件の報告だ」

 三代目――猿飛ヒルゼンがあくまで静かに言うと、志村ダンゾウは鼻を鳴らした。
 ここに列席している四人は第二次忍界大戦からこの方ずっと木ノ葉を支え続けている立役者であり、三代目とダンゾウの不仲は暗部はもとより上忍には周知の事実だ。カカシは、剣呑とした雰囲気を無視して続けた。

「侵入者を目撃したという例の下忍からの報告も併せて調べましたが、確固たる証拠は未だ見つかっていません。結界班の感知システムも異常は認めておらず、門の監視員にも念のため話を聞きましたがここ一ヵ月で特徴に合致する者が通った記録はありませんでした」
「――すると、内部の犯行ということか」

 うたたねコハルがしわがれた声で言った。水戸門ホムラが唸る。

「……もしくは、もっと内々から潜んでいた他国のスパイ……という可能性も」

 カカシが続ける。ヒルゼンはううん、と低い声で唸り髭を掻いた。

「私が飛ばした頸部を解析に持っていったところ、侵入者が使った忍術は未知のもので土遁分身に近いそうです。あの白い人形は木ノ葉の土壌と同じ成分で、使用者を特定できるような情報は得られていないと――」
「――仮に侵入者が未だ里におるのなら、一体誰が”アレ”を欲しがるというのだ?そこから考えるべきではないか」

 ホムラが言う。ヒルゼンは目を瞑っている。
 ダンゾウは薄っすらと唇を釣り上げた。

「柱間細胞を欲しがる輩など山ほどいる」
「おお、そうだな。ワシのすぐ近くにもいるやもしれん」

 ヒルゼンが少し厳しい声色でダンゾウに釘を刺した。ホムラがかったるそうな顔をしてダンゾウの方を向いた。

「ダンゾウよ。もし、あの日根の輩まであの場にいなければ侵入者を捕えることができたのではないか?カカシは優秀だ、妙な横やりさえなければ取り逃がすことはなかっただろうに!」
「なんの話だ。私はどのような横やりが入ろうとも任務を成功させる忍こそを優秀と考えている」
「侵入者を目撃したのはカカシと、その場に居た根のもの二人、そして土から出てくるのを見たという下忍のみであろう。まっとうに考えれば発見者こそが犯人――その下忍が侵入者ではないか?」
「流石にバカバカしい仮定だぞコハル。話によれば、アカデミーを上がったばかりの下忍というではないか。そのような子どもに暗部が遅れを取るはずがない」

 ホムラ様がそう思うのも無理はない。しかしオレはあの白いお面に刀傷を浴びせた――そして、“偶然同時刻に左眼に刀傷をこしらえた者が現れた”。これ以上なんの証拠が必要だ?

「カカシは、侵入者の顔面の左側を斬った。その下忍も同じころ、侵入者に顔の左側を斬られたそうだな?まっとうに考えれば犯人ではないか」
「その下忍が不審な者に斬りつけられる姿を見たという証言がある。そうだろう、ヒルゼン」

 ヒルゼンはまた唸った。
 カカシが聞いた話では、例の下忍――東雲サエと同じ班に所属するうちはイタチが、顔を怪我して逃げる姿を目撃している。証拠だけ見れば東雲が犯人だがアリバイがそれを邪魔している――うちはイタチが口裏を合わせている、ということがなければ。

「……カカシよ、情報が揃ってきた今改めて思い当たることはないか?」

 ヒルゼンが重い口を開けた。カカシは眉間にしわを寄せた。
 東雲の技術は拙く下忍の中でも下の方だが、カカシが写輪眼で幻術をかけようとしたのを寸でのところで回避した。あの子はズバぬけた感知能力、またはそれを発揮できる手段を持っているのかもしれない。それに、昼間の橋の上で採取した髪の毛と大蛇丸の研究所で見つけた髪からは同じ匂いがするとパックンから聞いた。つまり東雲は、柱間細胞を奪おうとしただけでなく大蛇丸の施設にも出入りしていることになる……自然に考えれば、侵入者の正体は大蛇丸が里に忍びこませたスパイだ。
 大蛇丸のスパイ?テンゾウと似た境遇に生まれた実験体か何かってことか?そんな奴が、オレに弟子入り志願してなんになる、まさかテンゾウと同じようにまた写輪眼を奪いに来たわけでもあるまいに――侵入者の犯行動機を考えるのは自分の仕事ではないと分かっていたが、何かが妙だとカカシの勘が告げている。

「ここ数日東雲に接触しましたが……特筆すべきところない、至って平凡な下忍という印象です。恐らくまだ形質変化も会得しておらず、気配を消すことも感知することもままならず、到底あの警備体制の中を掻い潜るのは不可能です」
「誰かに操られている可能性は?」
「写輪眼で吐かせようとも思いましたが……オレは幻術向きではないので、別の者を使うべきかと――」

――なんなんだ?
 カカシは少し苛々した。東雲の正体がなんであれ、何故、彼らはこんなにもまどろっこしい方法を取るんだ。下忍が容疑者として上がっているなら、さっさと召喚して尋問して、必要とあれば警務部隊や山中一族の力を借りて幻術をかけ吐かせればいい。東雲は確かに容疑者としては意外かもしれないが、幼い子供がスパイになるのは忍の世界ではよくあること、おまけに侵入者の特徴によく似た刀傷がある。それだけで召喚理由には十分のはずなのに、何故それをしない?

「……今日、東雲に手裏剣を教えました。もしオレが声をかければ明日にでも召喚に応じると思われますが、いかがしますか」
「なんと、カカシ!弟子を取ったのか?」
 ヒルゼンが場にそぐわぬ嬉しそうな声を出した。
「いえ、少し接触しただけです。隻眼になって戦いにくそうだったので、情報収集もかねて」
「そうかそうか」

 ヒルゼンが満面の笑みを浮かべて頷くので、僅かに苛立ちが募った。

「決まりだな、そやつを内密に連行し尋問させる……そうすべきだ」

 ダンゾウが朗々と告げた。

「……暗部を動かすつもりはない」
 ヒルゼンが言った。ダンゾウは褐色の瞳をギロリと見開きヒルゼンをねめつけた。
「少し白々しいのではないですかな、三代目」
「何の話をしておる」
 ホムラが眉を顰め、コハルがため息をつく。
「東雲は里の民だ、警務部隊に話を通すのが筋じゃろう。昼の会議でもそう決まったばかりだ」
「フガクの意見書にたまたま過半数の行政官が賛成したにすぎん」
「たまたまだろうがなんだろうが、可決は可決だ。ダンゾウ、なぜそうもうちはを毛嫌いする」
「二人とももっとわかりやすく話さんか」
 ホムラが荒々しく言った。ダンゾウの右眼の下瞼がピクリと震え、行灯に照らされた鼻が何か嫌な臭いを嗅ぎつけたようにひくひく動くのが見える。

「東雲の上の子がこの前うちはに嫁いだ。警務部隊長の補佐、うちはヤクミにだ」

 場が静まった。
 想定外の言葉が出てきてカカシは面食らった。

「東雲のアリバイを証明する唯一の証人もまた、同じ班員のうちはイタチだ」
「だからなんだ」
「わからんか?もし、”うちは”が”柱間細胞”を手に入れたいのだとすれば全てに辻褄があう……」
「まさか」
「それはおかしい。仮にうちはがアレを奪いたかったのだとしたら、下忍になりたての小娘ではなく秀才・イタチの方を使うはずだ。それに奴らは一族のゴタゴタに外部の人間を使わない」
「イタチは特別だ。あやつは一族の手先になどならん」
「憶測でものを話すのはよくない。――カカシの前だ」

 ヒルゼンが穏やかに、しかし断固たる声色でダンゾウの言葉を遮る。
 カカシは先程のダンゾウの言葉を頭の中で反復した。『うちはが柱間細胞を手に入れたいのだとすれば』――どうなるというんだ?
 嫌な汗が出る。嫌な気分だ……オレは今、あまり聞かない方がいい話を聞いている。

「カカシも暗部入りして五年、そろそろ里の内情を理解してくるはず……支障はあるまい」
「それは内情と言えるほどの根拠を持ったものではない。カカシ、九尾事件以降うちは一族に囁かれる勝手な噂を、よもや信じてはおるまいな」
「あの、九尾をうちはが操ったという……?」

 カカシは跪いたまま壇上を仰ぎ見て、ヒルゼンを、そしてダンゾウを見た。ダンゾウは視線を明後日の方向に逸らしている。

 カカシがオビトから写輪眼を譲り受けて里に帰ってきたあと、退院してすぐにうちはフガクが家に来た。そこには数名のうちはの若者も一緒に居た。カカシは、特殊能力を持った瞳術使いの立ち回り……瞳の価値、その運用について少しは知っていたので、微かに身構えたことを覚えている。うちは一族は、里に参画して以来一度も里の外にその瞳術を流出させたことがない。カカシの一件は里の外に出ることにはならなかったものの、一族以外の者が写輪眼を持つ初めての例になった。
 彼らは、カカシが一度報告書に書いたはずのこと――オビトがどのようないきさつで怪我をしてカカシに写輪眼を受け渡すことになったのか、その日がカカシの上忍祝いでオビトがプレゼントを持ってこなかったことも、それをミナトやリンも見ていたことなど事細かに――をもう一度話すよう促した。あのときの圧力……他国の忍に対峙するときとはまた違った緊張感だった。カカシは、『こいつらは、オレがオビトから眼を奪ったと思っているのか』と疑いながら、それを表に出さずになるべく冷静に話した。
 しかし、『病み上がりで申し訳ないが、一族の安全保障に関わる問題だったため聞いておかなければならなかった』と断ったフガクは、カカシがオビトから眼を強奪したとは全く思っていないようだった。仲間を失ったカカシを労り、オビトを悼み、写輪眼の使い方について勉強するようにと言ってうちはの書庫にある書物を貸してくれた。その心遣いが、もう他の者に眼を奪われることのないようにという一族の保身だったのか、おちこぼれだったオビトよりは優秀なカカシに渡ったほうがマシ、という身もふたもない理由だったのか……カカシにはわからない。

 勿論、九尾事件にまつわるうちは一族の不穏な噂は知っている。うちはが誇り高く優秀な一族であることも、少し排他的であることも……でも、カカシにとって一番身近なうちは一族はオビトだ。ずっとそうだった。
 あの屈託のない笑顔。
 馬鹿でドジで、太陽のような明るさと他人に共感し思いやる優しい心。義理堅さ。
 なにより、オビトは頑固だった。仲間を優先するという信条を、カカシの考えに歯向かってまで貫いた。オビトの、己の信条に忠実であることと、仲間に対する義理堅さ――しいて言うならそこが唯一彼にうちはの血族を感じる所以だ。
 つまりカカシは、うちは一族をはじめとした特殊な力を持つ一族が置かれた境遇、その振る舞いの難しさについてある程度理解を示していた。同時に、彼らが持つ社会的責任について信頼もおいていた。

「そういう噂は聞きますね。ですが、火影を襲い九尾を里で暴れさせるというやり方は、彼らの美学にそぐわないと思います。いつまでもうちはマダラを重ねるのも適切とは思いません」
「ほお」
 ホムラが感嘆の声を上げた。
「若いのによくうちはを分析している」
 コハルからも微かな含み笑いが聞こえるが、ダンゾウは微動だにしない。
 ヒルゼンが咳払いした。

「そうだな。そしてそれは今回の件にも通用する。ダンゾウ、貴様の言い方は少し誤解を招くぞ」

 ダンゾウは蛇のような細い目を滑らせてヒルゼンをねめつけた。

「……警務部を使うくらいならばまだ、放っておくほうがマシだ」
「それに関しては私も同意見だ。侵入者のことは気がかりだが、里に留まっているならいくらでも対処しようはある。それより今はもっと注力せなければならん議題があるだろう」
「いくら未遂で済んだとはいえそんなことで里を守れるのかえ?」

 ヒルゼンはまたため息をついた。もっと注力せなければならない議題、というホムラの言葉が気にかかる。

「……諜報の一環で、東雲本人には容疑が晴れた旨を伝えてあります。このまま監視を続けますか」
「よい。お前ほどの忍を遊ばせておくわけにいかん……」
「御意」

 徐々に彼らの思惑が透けて見えてきて、その全体像が朧気に浮かび上がってきた。
 手順の問題だ。木ノ葉の里では、里の中で起こった犯罪はまず警務部隊を通って司法部に上がるのが正規の手続きである。今回の侵入者が里の中の人間だった場合、警務部隊にまず報告が上がって彼らが東雲を任意同行し、聴取することになるだろう。勿論、秘密裏に暗部が連れてきて尋問することも容易くできるが、そういった行為――カカシが東雲の警戒を解く為に演技がてら話した”職権乱用”――こそが今まさに警務部と暗部の摩擦を引き起こしている。
 もし、火影の一声による暗部の独断専行が通用するとしたら、もはや警務部は木ノ葉の治安維持組織などではないただの警備システムに成り下がり、司法部が下す裁判にも里の意思決定機関にも殆ど関わることができていない現状に拍車をかける。これこそうちは一族から出ている不満の種の一つだ。
 警務部との摩擦を避けて正規の手段を取るとなれば、当然東雲の聴取は警務部の尋問室で行われることになる。すると、ダンゾウが憂慮している”東雲はうちはの手先ではないか”という疑いを晴らすことが難しくなる――ダンゾウは、うちは一族が行う尋問結果を決して信用しない、だから暗部を使って内密に処理したい。
 しかし、暗部が勝手に東雲を連れてきて尋問したとなれば、それは里の規則を無視し警務部隊の顔に泥を塗る行為になる。このことは、東雲が犯人であろうとなかろうと確実に誰かの口から伝わり(いくらなんでも未遂の強奪事件でいきなり下忍を殺すことはできない)警務部の耳に入る……。
 三代目は、警務部と暗部の対立が深まることになることを避けたいがために、今回東雲の件を保留した。なにも警務部だけじゃない、三代目は“ダンゾウとの対立も”避けたいのだ。

――そうか、だからオレが指名されたのか。

 頭が澄み渡るように晴れた。クソ。胸のうちで歯噛みする。
 上層部は、今回の事件について調査する際正規の手続きを踏むかどうかといった議論が机上に上がる前にケリをつけたかったのだ。暗部に所属し、写輪眼の持ち主であるため幻術をかけるのが容易で、事件の目撃者で、うちは一族ではない――この条件が揃ったカカシはまさにうってつけだ。
 三代目は、追跡調査を命じた時カカシに”写輪眼を使え”とは言わなかった。カカシが情報収集の最中”命令してはいないが、カカシ自身の判断で記憶を覗き尋問してしまった”という結果になることを期待していたのだ。越権行為をしたのはあくまでカカシであって、上層部の意向ではないと示すために……。

――実際、オレは写輪眼を使おうとした。

「巻き込んですまなんだ、カカシ」
「いえ、構いません」

 カカシの狐面の奥で、複雑な気持ちが渦巻く表情が見えたのだろうか。ヒルゼンは釣り上がった眉の下で奥まった瞳をやるせない様子で伏せた。

「――以上、これをもって柱間細胞強奪未遂事件追跡調査の任を解く。十分に身体を休めよ」
「はっ」

 カカシは頭を下げて退席した。身体的な疲労とは別の重い疲労感が、どっと両肩にのしかかった。
 ホムラの言っていた、“今もっと注力せなければならん議題”のことが気にかかったが、暗部では仮に上役の会話が耳に入っても己に振られていない仕事は関与するべきではない。本当にこのまま東雲を野放しにしていいのか、ということもまた、カカシが考えることではないのだ。
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