※性描写、暴力表現アリ


どんなに焦がれても報われない想い。

素直になれれば幾分変わるかもしれないけれど、
はっきりいって無理だし、死んでも御免だ。


だからだろうか。
いちいち視界の端に入るあいつを、見ていて苛立つのは。


(あーあ…、そんなで伝わるかよ。)
世界大会のなかで、日本代表に用意された寮の食堂。
俺のいままで送っていた生活にくらべれば、だいぶ早い時間の食事を、やる気なく頬張りながら
目の前で繰り広げられる生温いやりとりをみつめた。

和気藹々と話す数名のメンバーは、染岡、半田、円堂に風丸、壁山、そして問題の吹雪だ。

「だからさ!壁山がどーんとこう構えて、そんで風丸と染岡でどかーんっとシュートうつんだよっ」
「キャプテン、大介さんのノートみたいな言葉じゃ全然わからないっス〜」
談笑するやつらのうしろで、染岡にはなしかけているのが吹雪。
至極たのしげに今日の夕飯について語るやつの話を、染岡が小さく笑って頷きながらきいてやっている調子だ。

「でね、染岡く…」
「なぁ!染岡っっ」「あぁ?」

不意に、吹雪の小さな声を遮るような大声が聞こえ、その主、円堂に話をふられた染岡は、顔をすぐにそちらに向けて、ぶっきらぼうに返事をするが、これはあいつの性分であり、別に機嫌がわるいわけではない。

「染岡はさー二番目と三番目どっちがいい!?俺は壁山が一番で、風丸、お前の順番がいいと思うんだっ」
「あー待て待て!なんの話か読めねえよ」

穏やかだった吹雪との会話は終わり、染岡はすぐに賑やかな会話の輪に溶け込む。
当の吹雪はというと、談笑の隅でまるで切り取られたみたいに、微笑みながら皆の話に耳を傾けて時折相槌をうっているだけに留まっていた。
(くだらねぇ…ムカつく…)
まるで自分をみているようだと思った。
本当は話したい。加わりたい。全身からそんなオーラをだしているくせに、肝心な時に一歩引いてしまう吹雪は、素直に優しくなれない俺と、どこか似通っていると感じた。
「なあ吹雪」
「!」
くるりとふりかえる薄碧の瞳は、驚きで少し見開いていたように思う。
そりゃそうだ、俺がやつに話し掛けたのなんかこれが初めてだからな。

「不動くんが話し掛けてくるなんて珍しいね。」
吹雪は笑いながら食べかけの食事の乗ったトレイをもって、俺の向かいの席に移動してきた。あの、皆にむける笑顔と同じ笑顔で。

その顔やめろよ。イラつくんだよ。

「お前とはなすとイラつくからな。」
「ふふ、ひどいなぁ。」
「いいのかぁ?こっちにきて。大好きな染岡くんはみんなに取られちまうぞ?」
にやにやと見つめる俺に反比例して、再び薄碧の瞳が見開かれる。が、すぐにすぅっと冷静な表情で食事を再開させる吹雪の表情はどこか冷たい。
「何いってるの?別にそんなんじゃないよ」
相手が視線をおとしたまま話せば、俺も肘をついて、スープをくるくる掻き回しながら静かに反論する。
「物欲しそうな顔して見つめてるのバレバレだぜ?」
「ちがうってば。」
「あれさ、すげームカつくんだけど。やめてくんない?」
「君には関係ないじゃん」
「あ?俺に迷惑かけてんだからやめろっつってんだよ」
静かだった声も、やりとりを繰り返しているうちに互いにボリュームの調節がきかなくなる。
まわりが次第にざわつきはじめるのが聞こえたけどもう止められねぇ。
「僕が誰とどう話してたって僕の勝手だよ!君にやめさせる権利なんかないと思うけどなぁ?」
「ハッ!お前自分が歩く公害だってわかってる?それとも人に蔑まれるのが嬉しいのか、変態クン」
「うるせぇ!ごちゃごちゃ兄貴にちょっかいかけんじゃねえ!!」
突然黄金に輝く瞳に睨まれたかとおもえば、勢いよく立ち上がった吹雪に机ごしに胸倉をつかまれ、俺が無意味に掻き回していたぬるいスープは、憐れ床へと弾き飛ばされた。
「困った時は弟の後ろに隠れるってか。いい御身分だなァ、オイ」
「黙れ…士郎はぎりぎりのラインに立ってんだよ。コレ以上なにか言ってみろ。歯の二三本はもらってやるからな。」
「そうかい、だったらそうなる前にこっちからお見舞いしてやるよ!!」
瞬間、鈍い音をたてて端正な吹雪の頬に俺の拳がめりこんだ。
細い身体は勢いよく吹っ飛ばされて、何事かと注目していた染岡たちの席に派手にとびこんだ。
さすがにこれはまずいと、俺と吹雪…いや、アツヤは、闘争心冷めやらぬまま、周り数名に羽交い締めにされて引き離される。
「なにをやっている!不動っ!」
あばれる俺に向けられた、鬼道ちゃんの怒鳴り声で我にかえって、声のした方向に視線をむければ、敵意剥き出しの視線。
部屋の隅でたちあがった鬼道ちゃんは、おなじく隣にたちあがった豪炎寺とフォーメーションの相談でもしていたのだろう。手元には食事の他にもノートとシャーペン。
すっかり冷静さを取り戻した俺は、全身の力を一気にぬいて鼻で笑った。
「別に…こいつが嫌いで嫌いで我慢できなくなってさァ。話してたらつい、な。お騒がせしましたぁ〜」
いつもの調子で不適に笑って、抑えつけらる腕からすりぬける。
食堂を出るときにちらりと視界にはいった吹雪は、もうアツヤではなかったように見えた。

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それから二時間ほどたって、いつもの賑やかさにもどった館内を、ふらふらとあてもなくぶらついていた俺は、ある部屋の前にたちどまった。
ネームプレートには吹雪士郎の文字。
否、当てはこの部屋だ。
別に謝るつもりはなかったけれど、なぐった頬がどれだけ腫れたか笑ってやろうとおもってきた俺は、相当ひねくれているなとさすがに自嘲した。

「……」

扉をあければ、薄暗く手狭な部屋に二つのシングルベッド、その片方がこんもりとふくれていて、なかに部屋の主がいるであろうことは簡単に見て取れた。
基本、この寮の部屋は二人部屋だ。しかし吹雪士郎の部屋は、人数の関係でひとりで使っている。
しばらく入口から中を見つめていたが、いい加減この姿を他人にみられたら恥ずい。居を決して中に入った。

部屋に入って静かに扉を閉めながら、しばらくは壁際にならべられた吹雪の持ち物らしきものたちを、物色するように一通り手に触れていく。
なにしろこいつ私物が少ないものだから、俺はすぐに手持ち無沙汰になって、退屈を紛らわせようとベッドに眠る士郎の顔を覗き込んだ。

「………勝手にはいってこないでよ」
「なんだ、起きてたのか。」

布団からちらりと見えていた顔をみれば、普段から眠そうなトロンとした瞳と目が合った。
予想に反して真っ白な吹雪の顔には、あざこそあるものの腫れてはいなかった。残念だ。

「嫌なら鍵でもかけときゃよかったんだよ。」

小ばかにするように笑って話す俺のことばを、薄碧の瞳がじっとみつめる。

「僕さ、あんまり人のこと、嫌いにはならないんだけど。」
「俺のことが嫌いになったか?そりゃどうも」
「ううん。鬼道くんの気持ちがすごく分かったってこと。」

相手が出した鬼道ちゃんの名前に、がらにもなく息をのんでしまった。
いい返す言葉をさがしていた俺の、
見つめ合ったままのわずかな沈黙をやぶって、吹雪は静かに言葉をつづけた。

「わかりやすいのは君のほうだよ。鬼道くんと自分の関係を僕に重ねてる。だからいらつくんでしょ?迷惑だよ」

言ってくれるじゃねえか。

「ハハッ…!いい度胸してるな。また殴られたいのかよ」

そう言って胸倉をつかんでやれば、相手にかかっていたかけ布団がぱさりとシーツにおちて音を立てた。
俺のうでに捕まれて、か弱い身体は恐怖に震えている。馬鹿だな、そういうのが一番煽るんだってしらねえのか。

「おとなしく話ししてやろうとおもってたけどやめた。言っとくけどお前が撒いた種だからな」

そういって乱暴に相手の服をぬがせながら押さえ付ければ、悲痛なさけびがあがったけれど、顎をつよく掴んで制止する。

「うぐ…っ」
「なあ吹雪、俺は今からお前を抱くけどよォ、俺の名前は好きに呼んでいいぜ?俺もお前と別のやつを呼ぶから精々お互い楽しもうぜ?」
「別のって、…鬼道くん?」
「わかってんじゃねえか」

喉奥で笑って耳元に舌をはわせてやれば、身動きのとれない吹雪の身体は緊張してこわばる。

素直になれよ吹雪士郎。
そうすればお前は報われるじゃねえか。
俺とちがって、踏み出した一歩先に待っているのは希望だろ?

嫉妬にも似た感情。俺の所作は随分荒々しくて、時折吹雪は快感よりも痛みに眉をよせる。


「呼べよ。お前の好きな名前をさ」
「っ……」

歯を食いしばって身体をまさぐられる感覚に堪えていた吹雪だったが、
段々とあきらめの色がみえてきて
その唇はうすく開いていく。

さあ言え



「あ…アツヤ」




細く紡がれた言葉は、俺が予想した名前ではなかった。

当てがはずれたのは久しぶりだ。
くく、なかなか面白ぇじゃないか。


俺は 不敵にわらいながら行為を開始した。



自慰にも似た 二人遊び。



end

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