※ちょっとだけ注意。
攻略不能と思われていた、崇高なる帝国の姫君も、意を決して告白してみれば、存外簡単に手に入った。
かわいいかわいい、俺の鬼道ちゃん。
これからどう料理してやろうか。
スーパー頭脳の天才ゲームメーカーも、こと恋愛に関しては雛鳥のごとし。
口を開けて餌をあたえられるのをただ待つのみの、うぶで奥手なその辺の中学生に成り下がる。
俺はというと、金目当ての売りやら総帥さまやらの御蔭で、性に関してひとよりも大分緩い感覚をもっているらしい。
(あとテクニックもそれなりに自信がある。)
だから、付き合ってその日に事に及ぼうとした俺は、耳まで真っ赤になった鬼道ちゃんに、散々説教をくらってしまった。
「鬼道ちゃん。いい加減ヤろうぜ?もう一週間だ俺達。」
「まだ一週間だ。」
ぴしゃりと言い放たれた一言は、毎日言い聞かされてきた言葉だ。
さすがの鬼道ちゃんも、もう真っ赤になったりどもったりしなくなった。
つまんね
「……俺はさー意外だったなぁ」
「なにが。」
「鬼道ちゃんは総帥のお気に入りじゃん?俺やアフロなんかより、散々いじくられて開発されてるかと思ってた。」
「……総帥とはそんな仲じゃない。」
ふぅん、とことん『お気に入り』だったわけか。
「まあそっちの方が俺は嬉しいけど」
「…」
にやりと瞳を細めて笑って、俺は本を読みながらソファーに足を組んで座る、鬼道ちゃんの隣へと腰掛けた。
ここは鬼道ちゃんの家、鬼道ちゃんの部屋。
壁や床まで上品な風格のこの空間は、
腰掛けたソファーだって、俺ん家にあるどの布団よりふかふかだ。
そんな部屋の主である鬼道ちゃんの膝に鎮座する、分厚いハードカバーの本をのぞきこめば
げっ、英語で書かれてるじゃんか。ありえねえ。
つまらないからそのまま柔らかい鬼道ちゃんのほっぺたに、軽いリップ音をたてて口づけた。
二三度繰り返し軽いキスを送ってやったら、赤い瞳がこちらにむけられ、じきに顔も俺のほうに向いた。
「ふど…」
「んー?」
いまにも俺に文句を言いそうな鬼道ちゃんの、開きかけた口をすかさずキスで塞ぐ。頬、鼻頭に続いて唇にも、ゆったりと軽いキスを何度か繰り返せば、観念したのか鬼道ちゃんは大人しく本をとじた。
キスの許可をもらうまで三日かかった。
三日間ヤらせろと 散々だだをこねていたら、鬼道ちゃんはキスまでなら、と三日目の部室で唇を重ねてきた。誰もいなかったとはいえ、意外に大胆だ。
しっかし鬼道ちゃんのキスは相変わらずへたくそだな。
俺が唇を舐めてうながしてやっても、頭のうえにはてなを浮かべたような面して、唇すら開けずにこっちを見てやがる。
とりあえず目ぇ閉じろ。
仕方ないからキスを止めて、鬼道ちゃんのほっぺたをムニっとつかめば、幼いその顔は、たこみたいなマヌケ面になる。
「んむっ、ふど」
「はいはい。文句いうなよ童貞くん。ははっ、へんな顔」
そこで再び口をキスで塞いで、警戒の緩んだ口内に舌を潜り込ませた俺は
ようやく頬をはさんでいた手をはなした。
つよく握りすぎたのか羞恥だかわかんねぇけど、鬼道ちゃんの頬はほんのり赤くなっていた。
「んっ…ふ」
歯列を舌でなぞって、上あごをくすぐってやったら、まだ開いたままの鬼道ちゃんの赤いルビーみたいな瞳はとろんと蕩けて、塞いだ唇からはくぐもった甘い声と吐息が漏れた。
俺は、これでもかというほどその口内を貪り、口をはなす頃には、すっかり鬼道ちゃんの体からは力がぬけてヘロヘロになっていた。
細い体躯を俺にもたれて、浅く呼吸を繰り返しながら控えめに裾を掴んでくる姿は、誘ってるようにしか見えねえんだけどなァ。
「鬼道ちゃん。重い」
「…すまない」
「ちからぬけた?かーわいいの」
「う、うるさい」
悪態をつきながら体を離す鬼道ちゃんをみながら、不意にその肩をおしてやる。油断していたのか、鬼道ちゃんはそのまま仰向けにソファに倒れた。
「っ…なにをするっ」
「いいじゃん、別に。ヤらねえからこの体勢でキスさせろ。」
「んーっ」
覆いかぶさるような姿勢で、顔をかたむけてまた口づけ。
鬼道ちゃんの細い足の間に、体を割り込ませるなんてエロい体勢に、思わず半勃ちしかけるのを、キスの合間の呼吸で何とか落ち着かせる。
舌を絡めるのに夢中になって、ぐっと腰をおしつけたら、その瞬間いきなり鬼道ちゃんに本気で押し返されて、俺達の間にいやらしく銀糸が伝った。
「いって、鬼道ちゃんこそ何すんだよ。」
「何するんだじゃないっ!今の体勢を見ろっっ」
俺は言われるが間々、押された胸元をさすりつつ、鬼道ちゃんの体勢をまじまじと見る。
「…M字開脚?」
「その通りだっ!これじゃあ逆だろう、退けっ」
「は?」
なにいってんだ鬼道ちゃんは。
この流れで俺に下をしろと?
「ありえねえだろっ!鬼道ちゃんヘタそうだからヤダ」
「なっ…下手だとっ」
「キスもまともに出来ないくせに」
小指で耳をかきながら、舌をだしてそっぽをむけば、視界の端で鬼道ちゃんがわなないているのが見えた。
俺は正直、男役だろーが女役だろーがどっちでもよかったけど、ここまで当たり前論を決め込まれたら、なんだかこのまま組み敷かれるのは気にいらねー。
「俺のほうが背たかいし。」
「あまりかわらないだろうっ」
「俺のほうが男らしい。」
「よく言えるな。その中性的な顔で。」
「俺のほうが上手い。」
「ぐっ……」
さすがに言い返せなくなった鬼道ちゃんが、喚くのをやめたので
俺はようやくそちらに視線を向けた。
「観念した?」
「……百歩譲ってはじめは上を譲ってもいい。」
「まじか。言ってみるもんだ」
俺はご機嫌になって鬼道ちゃんを再びソファに押し倒す。
しかし、その先を続けようとした時、当の鬼道ちゃんによってあっさり拒まれてしまった。
両腕で俺の肩を押して、これ以上数センチも近づけさせないという力のこめかた。これはマジで拒否られてる。
「いっ今じゃない!」
「ちっ、どうせいつかするんだろうが。今ヤっても一緒だろっ。」
「屁理屈いうな!条件もあるんだ聞け」
「条件?」
しばらく押し合いしていたけど、最後の言葉にようやく俺が身体をはなせば、鬼道ちゃんは ほっ としたのか全身から力を抜いて瞳を細めた。
「いいか、はじめは譲るが、二回目以降は交代制だからな。」
「それって、鬼道ちゃんの処女を俺が頂いたあとに、鬼道ちゃんの筆おろしを俺でするってことか。」
「……そうなるな」
鬼道ちゃんのえっち。
「鬼道ちゃんのえっち。」
「うるさい」
俺は思った間々の言葉をくちにして、赤くなってそっぽをむく鬼道ちゃんの頬に、そっとくちづけた。俺の顔はほころんでゆるゆるに違いない。
格好わるっ。
「鬼道ちゃん愛してるよ。」
「…俺もだ。幸せにしてやる。」
それは俺の台詞なんだけどなぁ、本当鬼道ちゃんって考えることだけ侍。
こちらに向き直った鬼道ちゃんに俺は、
名残惜しむようにもう一度だけ口づけた。
(BGM/恋のドキドキ大作戦)