※アツヤ生存


兄ちゃんは甘いイケメン顔をしている。

兄ちゃんはみんなに優しい。

兄ちゃんは声もセクシーで蕩けるようなボイスだ。

だから兄ちゃんは女にモテる。








でも


兄ちゃんは
男とつきあっている。





「兄ちゃんさー、男役?女役?」

「やだなぁ、アツヤ。野暮なこと聞かないでよ。オッサンくさいよ。」


俺の質問をさらりとかわして
先の恋人とのデートにむけて、念入りに髪をセットしているのは、俺の兄貴の吹雪士郎。

前述のとおり、うちの兄貴は男とつきあっている。


相手の名前は南雲晴矢。
元エイリア学園ファーストランクだとか何とかいってたけど、
俺は興味ないことは頭に入らないので、
あんまり覚えていないし興味もない。



兄貴がたとえホモだろうが、どんな不細工な女を連れて来ようが、
俺はさらさら反対する気もないし、否定する気もない。


むしろ、逆に応援してやる気満々。
大好きだからな!
言わないけど。



だけど、南雲だけはだめだ!
あいつだけは断固反対する!
ポストが青くなったって、マイケ○ジャ○ソンが生き返ったって、俺の考えはかわらねえ!



何故か。






南雲と兄貴が付き合いはじめて、俺は朝から晩までもやもやさせられているからだ。



もやもやの理由も聞きたいか?


いいぜ 教えてやるよ。





それはな。




「南雲と俺って似てないか?
見た目とか性格とかさ。
兄ちゃんって俺のこと好きなのかな?
なあ南雲は代わりだと思うか?」

「それを俺に聞くのか!」


目の前でわなわなと肩を震わせる南雲へ、
俺は机にすこし身をのりだしつつ、真剣な眼差しで問い掛けた。


そう、そうなのだ。
兄貴が恋人として選んだ男は、俺と実に類似点の多い男だったのだ。


ツンツンに立った髪。鋭い眼光。そして気性の激しい性格。


まあ性格の難にかんして自覚はある。つっこまないでくれ。


「おい南雲!ちゃんと答えてくれ。俺は夜もねむれないんだぞっ」

「ばかやろう!今日からは俺が眠れなくなるわ!」

答えをしぶる南雲に、しびれを切らした俺が机をバンバンたたいたら、周りの注目を少々あびてしまった。

ここは駅前の喫茶店、スター○ックス。


南雲を呼び出した俺は、
注文したバニラフラペチーノを口に運びながら、机に突っ伏してしまったやつを見下ろした。



「ああぁ…くそアツヤ。お前のせいだ。お前のせいで俺まで悩む羽目に…ちくしょう」

「なんだ?南雲はなにを悩んでるんだよ。俺は死活問題なんだぞ!不眠症でシュートはずしたら責任とれるのか」

「……うおぉい…っ!なにから突っ込んだらいいんだ。」

ようやく顔をあげた南雲が、力なく言えば
俺は飲んでいたフラペチーノの残りを、ずぞぞぞと音をたてて飲み干した。


「とにかくさぁ、南雲 兄貴にきけよ。お前らの問題じゃん。俺は口出しできねえ。」

「おお!そうだなっ、俺達の問題なんだよな!だからなんで余計なこと言ったんだよ!」


笑ったかとおもえば、また怒鳴って、
忙しい男だぜ。南雲晴矢。


南雲は、飲みほして空になったコーヒーのプラスチックカップを、勢いよく机に叩きおいた。
中身のないそれは
ぺこんっ、と
思ったよりも情けない音を店内に響かせた。


「まあ……不慮の事故的に知らされたこととはいえ、俺も気にならないかと言えば嘘になるな。……くやしいけど聞いてやるよ。」

「マジか!やった!」

南雲の言葉に、すぐに携帯を取り出す俺。

おい 今すぐかよ!
という南雲のツッコミを無視して、俺は兄貴に電話をかけた。

いち、にい、さん…

あたまの中で呼び出し音を数えていたら、四回目で兄貴が電話に出た。


『もしもし?アツヤどうかした?』

「兄ちゃん?俺さ、いま南雲とスタ○にいるんだけど兄ちゃんも来れないか?」

『えー?なんでアツヤが南雲くんと一緒なの。浮気浮気ーって言ってアツヤ!ははっ』

「俺といるお前に、浮気浮気ーキャハキャハって言えって」

「てめぇ!今の俺は可愛いなんていわねえぞ!」


携帯の通話口を押さえながら伝言をつたえたら、真っ赤になった南雲が両手で顔を隠した。
嬉しそうだな。


『実はさー僕もいま駅前の本屋にいるんだ。すぐそっち行くから待っててくれる?』

「おう。待ってる。じゃあ早く来いよ!」

『うん、じゃあねー』


携帯を切った俺は、未だ照れて赤い顔の南雲を見遣る。

うーん やっぱり似てるぜ。


「な、なんだよ」
「いや、マジで似てるなあと思って。」
「やめろっ」


ぐだぐだと会話していた俺達だったが、
自動ドアがひらく音に、そろって視線をむける。


視線の先には、本屋の紙袋を鞄につめこみながら入ってきた兄貴。
兄貴は軽くこちらに手を振ってから、カウンターで注文をするために背中をむけた。

振り返ってそれを見ていた俺は、体勢をかえてまた南雲に向き直る。
ふと目の前のやつを見たら、その視線は兄貴を追っていたかとおもえば、ごくりと喉をならして少しだけ汗ばんでいた。

緊張してやがる。

「おまたせ南雲くん。アツヤ。」

聞こえてきた声に顔をあげれば、おぼんにケーキとカフェラテを乗せた兄貴が立っていた。
兄貴は、隣の空席から椅子をひきずってきて、調度三人で、丸テーブルを三角にかこむように座る。

なんか複雑な人間関係を物語っているみたいだ、とか哲学的なことを考えてみる。




「ん?あれ?あはは、僕気づいちゃった。」

ストローをカフェラテに指しながら、兄貴が俺達を見て急に笑いだした。


「南雲くんとアツヤってなんかそっくりだねっ。」
「「!!!?」」


なんてことだ!
今まさに聞こうとしていたことを兄貴に言われるとは!
俺と南雲は、まさかの展開に二人して唖然と兄貴をみる。
それを見た兄貴が、脳天気に「あはは、やっぱりそっくり」などとへらへらしているのが何だかすごく小憎らしかった。



「しっ…しろ…士郎!」
「なあに?南雲くん。」

急に叫んだ南雲の、裏返った声で我に帰る俺。
いかんっ 本題はここからだっ

「おま、お前は、…お前は」
「?」

がんばれ南雲!今ばかりは応援してやるっ



「お、お前、は、アツヤに似てるから俺のこ「兄ちゃんは俺が好きなのか!?」ぎゃあ!っっ…アツヤ!」

南雲があんまりまごまごしているものだから、我慢出来なくなった俺は、机に手をつき立ち上がって身を乗り出した。


「……」


そんな俺達を、きょとんと目をまるくした兄貴が見つめて一気に沈黙した。



き、気まずい。





ちゅぱっ

兄貴がカフェラテのストローから口をはなす音が、やけに大きく響いた。




「あー…どうなんだろう。そうだねぇ。そういうことになるのかなぁ…」

「し…士郎ぉ…」

情けない声をあげる南雲に、なんだか勝った気になって椅子に腰掛ける俺は、ふふんっと満足げに笑った。

「でも南雲くんは南雲くんだし、僕アツヤも南雲くんもちゃんと好きだよ。」

兄貴は俺達二人に、天使の笑みをむけて、小悪魔みたいな台詞を言ってのけた。

「士郎っ…お、俺もすきだ!」

半分涙目になって兄貴の手をにぎる南雲は、そんな言葉でもすごく嬉しそう。単純だぜ。

なんだか面白くないぞ!

要は兄貴は俺も好きかもしれないってことだよな!


俺は、座っていた椅子をひきずって、兄貴のとなりに移動してから、ぎゅうっと兄貴を抱きしめて南雲をみた。


「こらアツヤ!士郎から離れろっ」
「嫌だねっ!やっぱりお前には兄ちゃんはやらねえっ」
「なに!?ふざけんなよっ」
「二人ともケーキたべる?」

ちぐはぐな会話が店内に響き、俺達はすっかり注目の的だったけど気にしない。


兄貴から差し出された、一口分のケーキをしっかりたべつつ、
南雲と俺は閉店間際まで口論を続けたとさ。




結論。


世の 士郎ファンの老若男女よくきけ!


兄貴に手をだしたかったら、その前に俺を攻略することだな!



以上っ

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