まあ、いろいろと思い出したくないこともあったけれど、僕は雷門に助っ人にきた。

だって僕は彼等に大きな借りがあるからね。
エイリアだかなんだか知らないけど、今こそが恩返しのチャンスだと、いきり立ってやってきた。




そこに彼はいた。


色素の薄いふわふわの髪に、真っ白な肌。
背なんか僕や女の子よりも小さくて、
そう、
まるで西洋画にでもでてくる天使みたいな姿をしていた。


だけれど、始終彼は
浮かない顔をして、練習にも参加していないのに
今にも倒れてしまいそうな危うさがあった。


(名前…なんて言うのかな)


僕は、なかなか打ち解けられない最初の試合で、ずっとコート際の彼ばかりに気をとられていた。






「ねえ、どうして君は練習に参加しないの?」


練習後に、ついに我慢できなくなった僕は、
ベンチに腰掛ける彼に近づいて行って尋ねた。
彼は座ったまま、そのとろんとした目をすこし見開い僕を見あげる。

驚かせてしまったみたい。


「あ…と、アフロディくん…だっけ?」
「そう。僕は亜風炉照美っていうよ。君の名前を聞かせておくれ。」
「僕は…吹雪士郎。うん…士郎。」

名前を言う彼はすこしさみしげに、だけどどこか自嘲気味に笑って瞳をふせた。
名前、士郎。
いい名前だと思うけれど。
彼にはそこに何か、悲しい顔をするほどに、こころにひっかかることがあるようだ。

何だろう。
何だろう。

すごく気になる。
こんなに気になるのも気になるけれど。とにかく目の前の疑問を解決しなきゃ。

「名前、嫌いなの?」
「そうじゃないけど…」

苦笑して黙り込んでしまった吹雪くん。
どうやらこれ以上は聞き出せそうにないようだ。

はじめて喋ったんだもん。当然といえば当然かぁ。

だけどね、
僕の気持ちはそんなことじゃ納得いかないんだ。
だって気になって気になって仕方がないんだもの。
このままじゃ、夜もろくに眠れないに違いない。

ああ、とっても気になるよ。


食い下がることに決めた僕は、片付けをはじめるみんなの波を無視して、吹雪くんの隣に腰掛けた。

「吹雪くん、下の名前で呼んでもいいかな?」
「え、あ。うん、かまわないけど。」
「それから、今日一緒に寝たいな。部屋にいってもいい?」
「へ?!…あの…」
「お風呂も一緒にいこうね。」

息つくまもなく言う僕の、その勢いと笑顔に気圧されて、士郎くんは気の抜けたような返事をかえすしかなかったみたい。

僕はそのまま士郎くんの手をつかんで、校舎に用意された宿泊施設へと歩きはじめた。

「ちょ、ちょっと待ってアフロディくん。片付けしないとっ…」
「僕は片付けなんてしなくてもいいんだよ。みんな許してくれるもの。」
「う…そんなぁ…」

戸惑う士郎くんは、そう言いつつも僕にひかれるままについて来た。

「僕はね、君がどうしてそんなに憂いをおびているのかが知りたいのさ。それには友達にならないと教えてくれないんでしょう?だから僕ははやく君と仲良くならなくっちゃいけないんだ。」
「!」

脱衣所について、振り向きざまにそう言ったら、士郎くんは一度きょとんとしてから、その顔を花のような笑顔にかえて肩をすくめた。

「ふふっ…あははっ、君って随分素直なんだね。」
「?」

僕はなにかおかしなことを言っただろうか?

士郎くんは、頭にはてなを浮かべる僕をよそ目に、くすくすと肩を揺らして笑った。

「いいよ。じゃあ僕たち今日から友達になろう。
でも、もう少し君のことをしらなくちゃ。
そうだな。そうしたら、
なんでも君の聞きたいこと教えてあげるよ。」
「本当?じゃあ何でも聞いておくれっ。」

僕には隠すことなんて何もないよ。

喜々として言う僕に、士郎くんはまたすこし笑って、僕たちは軽く握手をかわした。
その手が思っていたより温かかったものだから、僕はなぜかほっとして、士郎くんに笑いかけた。



そのあと、追いかけてきた円堂くんと風丸くんに
片付けをしなかったことをふたりして叱られたのは、また別のお話。




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