「緑川。誕生日に、なにかほしいものはあるか?」

吉良邸、別名おひさま園改。
皆であつまって、広間の座敷で夕食をとっている最中、決して大声ではなかったけれど、砂木沼の何気ない一言が、なんだかやけに大きく響いた。

今日は土曜日。明日の休みは緑川リュウジの誕生日である。

「…えっ。砂木沼さんが俺に誕生日プレゼントを?っ…」

真っ赤な顔で、あからさまに嬉しそうなリュウジ。
隣で食事をする俺の目には、その可愛らしいおしりにふわふわの犬しっぽの幻影が見えたほど、緑川の瞳は期待にきらきら輝いていた。

「ああ、あまり高いものはやれないが、なんでも好きなものを言ってみろ。」

「あ…あの、じゃあ…じゃあ明日一日……」


どぎまぎと視線を泳がせて話す、リュウジの言葉の続きが、『恋人になってください』だったら、
この場でリュウジを殺して俺も死のう。


「明日一日、砂木沼さんのことお兄ちゃんって呼んでいいですか!?」

ブーーーーッッッ!

「ぎゃああああヒロトてめぇきたねぇ!!」


リュウジの予想外の言葉に、すすっていたみそ汁を盛大に吹き出したら、目の前に座っていた南雲に思いっきりぶっかけてしまった。

大惨事だ。

南雲の隣に座っていた涼野は、さっと素早く自分の茶碗や魚を避けて、被害はないようだけれど。

「リュウジ!どうしてさ!俺だってお兄ちゃんなんて呼ばれたことないのに!」
「おいコラ!ヒロト!まず謝れよ!俺と俺の焼き魚とご飯とみそ汁に謝れ!」
「なに?ヒロト、口にワカメついてる。汚い」
「論点をずらさないでよ!俺を差し置いてなんで砂木沼がお兄ちゃんなのさ!」
「ヒロトおおぉっ!!」

広間は一気に賑やかになった。というか煩い。
その大半が俺と南雲の声だけれど。


「話しがずれてしまったな。まあ…とにかく、
緑川。
ふふ…。いいだろう。明日俺を兄だと思って甘えて来い。」

そんなもので本当にいいのか?と落ち着いた笑みを浮かべる砂木沼と、言葉にできない様子で何度も頷くリュウジ。

ああ、なんて微笑ましい光景だろうか。



もしも砂木沼の立ち位置が俺だったなら、文句なしにそう思っただろう。

いや、もしも砂木沼がワカメのみそ汁をぶちまける側だったとしても、リュウジは甲斐甲斐しく彼の元に布巾を運んだに違いない。


ようするに、どんな場面でもリュウジのイデオロギーの頂点は砂木沼であることに変わりはないということだ!


なんて面白くない!!



俺は、喚く南雲を無視して食事を終え、足早に部屋に戻って目覚ましをセットした。

設定は朝の五時である。


「……絶対に…俺のこともお兄ちゃんとよばせてあげるよリュウジ…」


誰に言うでもなく呟いて、俺は部屋の明かりのスイッチをオフにした。

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