夕飯の香り漂う食堂へ、ふらふらと頼りない足取りで向かえば、朝礼以来の僕の姿に
皆あつまってあちこちから心配の言葉をかけてくれた。

なかでも染岡くんは、僕の今朝の手紙のことを皆が話題にださないように、
中心にたって話し掛けてきた。
やっぱり優しい人だ。

「吹雪、どうしたんだよ。今日シュート練習するっつったろ?具合わるいのか?」
「ん、大丈夫、ちょっと疲れてるだけだから。」
「疲れてるって…病院で診てもらったほうがいいんじゃねぇ?」
「大丈夫だよ。大袈裟だなぁ。」

心配そうな染岡くんの言葉が嬉しくて、ついくすくす笑ったら
本当に元気そうだなっと照れた染岡くんに頭を軽くどつかれた。


「吹雪。」
「あ…監督…」

あーあ
まだうまい言い訳を考えてないのに…

入口付近でわらわら集まってきた皆と話していたら、あとから入ってきた監督に声をかけられて振り返った。
僕は叱られるかも…と肩を竦めて俯いたけど、
返ってきた反応は意外にあっさりしたものだった。

「……次はない。代表としての自覚を持て。いいな?」
「は…はいっ」

そのまま通り過ぎていく監督を、わけもわからずキョトンと見つめていたら、隣の染岡くんが口を開いた。

「吹雪がこないと騒ぎになる前によ、豪炎寺と鬼道が監督に朝のこと説明してくれたんだぜ?
礼いっとけよ。」
「そうなんだ。…はぁ…叱られるかと思ってビクビクしちゃった」

豪炎寺くんと鬼道くんは、いつも周りが見えてる。僕なんか自分のことで精一杯なのに。…ありがとう。


中心だった僕がトレーをとりに移動すれば、いつしか周りのメンバーたちも各々食事をはじめる。
僕と染岡くんも、そのまま二人して話しながら食事をはじめた。

「染岡くん、僕さ、どうしてもアツヤと話ししなきゃいけないんだ。どうしたら会えるかな?」
「おま…人がわざわざ話題にださないようにしてやったのによ」
「ふふ、知ってたよ。ありがとう。」
「………んー、そうだなあ。夢で会えたっつったよな?だったらまた夢で会ったらいいんじゃねえ?」
「どうやって?」
「好きな夢見るには枕のしたに関連するもの敷くといいっていうよな。よく。」

あっ!お前あんまり本気にするなよっ
と 続ける染岡くんの声を、どこか遠くに聞きながら、上の空で返事をかえす。

夢のなか…か…
僕から会いに行くことなんて出来るのかな。





食事を終えた僕たちは、皆で大浴場へ。

木暮くんが泳いでまわってるけど、いまは叱る役の春奈さんがいないから放置…かと思えば、鬼道くんに足をつかまれて溺れかけてる。
僕は染岡くんと湯舟のすみにつかりながら、他愛もない話しをしたりして過ごした。
賑やかな雰囲気じゃなかなか落ち着いて湯舟にはつかれないけれど、何だか久しぶりにもやもやが晴れたような気持ちになれた。





お風呂からあがった僕は、部屋に戻ってほてる身体をクーラーの風で冷やす。
ちょうど腰掛けたベッドに風があたるように向きを調節すれば、濡れた僕の髪がふわふわとなびいた。


(綱海さんとか今部屋にきたら、「寒い!」とかって叱られそう。)


しばらくそうして落ち着いたところで、僕はさっそく
いつも持ち歩いているアツヤの写真を取り出した。
もちろん、枕の下に敷くためだ。
シワがはいるのが嫌だから、定期入れにいれたまま枕にはさみ、そのまま布団に潜り込む。

(電車の夢とか見たらどうしよ…)

一日寝こけていたはずなのに、僕のまぶたはすぐに重くなった。

(神様…あなたのこと、僕あんまり信じてないけど、今夜はどうしてもアツヤに会いたいんだ。ほんの少しだけ信じてあげるから…お願い。会わせてよ…)

そっと目を閉じてしばらくクーラーの音を聞いていたら、意識は夢のなかへと落ちて行った…


---------


僕は雪の降り積もる湖の真ん中で、氷に穴を空けて釣り糸を垂らしていた。
小さな椅子に腰掛ける僕の足元には、魚のはいってないバケツと釣り道具一式。
そして隣には、アツヤが座って穴を覗き込んでいた。

「士郎、なんで釣りなんだよ。さみぃ…」
「アツヤが食べたいっていうからっ!僕だって寒いよ」
「や、そうじゃなくてさぁ」

歯の根があわずにがちがちと震えて言えば、アツヤが顔を上げて僕を見た。


「士郎は、俺に会いたかったんだろ?」
「!!」

アツヤの言葉を皮切りに、急にフラッシュを焚かれたように目の前がしろくなり、気がついたら僕とアツヤは暖かい暖炉の前に立っていた。
そうだ、これは夢だ。染岡くんおてがらだよ!アツヤに会えたっ

「すごい!あんな方法で会えるならはやくやればよかったよ。」
「んなわけあるかよ、もともと今夜会いにくるつもりだったんだ。だいたいしょっちゅう会ってたら、俺が消えた意味ねぇだろっ」

それはそうだけど。

「でも嬉しいんだ。」

にこにこと満面の笑みをむけていたら、アツヤは少しため息をついて頬を赤らめた。



「……士郎、
あの手紙の字、かいたのは俺なんだ。」
「えっ……」

少し間を置いてから、
急に真剣に話しはじめるアツヤ。
僕の笑みは、アツヤの言葉に一気に掻き消されてしまった。

あの字はアツヤが…いや、結果的には僕が書いたものってこと?

わかってはいたけれど、期待しなかったかと言えば嘘になる。
明らかに落胆の色を隠せない僕に、アツヤは続けた。

「お前があんまり悩んでるからさ。でも士郎、俺は

事故 あ

か 。」
「………?」

アツヤの言葉が聞き取れずに、俯いていた顔をあげてアツヤを見る。

「なに?アツヤ。聞こえないよ」
「士郎!聞こえないんじゃなくてお前がっ

てな ん !士郎っ俺は
!」

いらついたように怒鳴りながら、僕の肩をつかむアツヤの指が皮膚に食い込んで痛かった。
だけどその言葉は、断片的にしか聞こえなくて
ちっとも意味が伝わらない。
僕は戸惑ってアツヤをみながらオロオロと視線をさ迷わせた。

「ちっ…士郎、いいか。これだけは聞けよ。俺は………俺は葬式のとき」
「アツヤやめて!!」


夢のなかで叫んだ僕の言葉は、凶器の風となって部屋をめちゃくちゃに引き裂いた。
崩れおちる建物の瓦礫にひきはなされながら、アツヤがなにか叫んでいたみたいだけど、やっぱり僕の耳には届かなくて、



気がついたらまだ薄暗い明け方の部屋で、僕は涙を流していた。


枕の下にはさんでいたはずの定期入れは、床のフローリングに虚しく落ちている。


「本当のことなんて…聞きたくないよアツヤ……」


つぶやいた声は、かすれて涙と一緒にシーツに溶けた。

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