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我が家の幽霊の名前は、総司と言います。

彼の性格は傲慢で、意地悪。そして甘ったれ。
更に言えば気分屋。
今日は天気がいいとにこにこご機嫌だったと思えば、次の瞬間には日差しが鬱陶しいなどと怒って見せる。




何かと言えば「殺すよ」と脅す彼を怒らせないよう、普段はビクビク大人しく彼の我が儘に付き合っていた私けど、この日は私もつい我慢の限界で強く言い返してしまった。


だって彼は、うちの庭に毎日遊びに来ていた黒猫(彼は何故かその猫をトシと呼んでいた)に石をぶつけて遊んでいたのだ。


私が、
「石をぶつけたら可哀想ですよ」
と言えば
「猫には感情なんてないから可哀想じゃないよ」
と言った。
「猫だって痛みを感じます」と言えば
「君は畜生の気持ちがわかるんだ。まぁ同じレベルだもんね。」と笑った。
今度は彼が太い気の枝をぶつけようとしたので、私はついに強く言い返した。
「命あるものは皆感情を持ってます!総司さんは言葉に出してもらわなければわからないんですか!?」
思いの外大きな声で言ってしまったので、私は激しく後悔したが遅かった。
彼はジロリと私を一睨みすると、千鶴ちゃんのクセに生意気だと吐き捨て、何処かに言ってしまった。




その日一日彼は私の前に姿を見せなかった。わたしも怒りが収まらなかったので放っておいた。

夕食時、彼が好きなテレビが(彼は幽霊のクセにテレビが好きなのだ)始まったがやはりやって来なかった。
いつも横でぐちゃぐちゃテレビの内容に文句を言う彼がいなかったので少しだけ寂しく感じた。
夕食の後片付けをしていると窓の外からニャーと聞こえたのでトシが来たのだと思い、私は牛乳を皿に入れて窓を開けた。
するとトシは既に何かをムシャムシャと食べていた。
何だろうとよく見ると、人間だって祝い事でもなければ中々食べれない上等の魚を食べていた。



どうしてこんな物が・・

辺りを見回すと、縁側の端っこにちょこんと彼が座っていた。


「これ、総司さんが?」

「・・・」


彼は黙ったままトシを見ていたので私は彼の隣に腰かけた。
月明かりのしたで見る彼の横顔は、触れたら消えてしまいそうな程儚くて、持ち前の端正な容姿と相まって、何だか一種の芸術品か何かと見紛うようだった。



暫くして彼は口を開いた。
「僕は随分長い間誰にも気づかれず、誰とも話せずここにいたんだ。僕に気付いてくれたのは君が初めてだった。」


「・・・それって私と仲直りしようってことですか?」


私が聞くと、彼は頬を紅くして煩いなあと立ち上がってトシの元へ行ってしまった。
しゃがんでトシを撫でながら、悪かったねと言った。
トシに言ったのか、私に言ったのかはわからなかった。
素直じゃない彼の背中がなんだか寂しげで、私は昼間の怒りなんてどこかに消えてしまった。


私が彼の横に立つと、かれは小さな声で「トシは自分の兄代わりだった人に似てるんだ」と言った。
私が「きっと総司さんはその人のことが大事だったんでしょうね」と言うと、彼はまた殺すよと言った。
私はなんだか彼のその脅し文句すら可愛く思えてきて、はいはいと頷いていた。