clap | ナノ

最後にあなたの背中を見送ってからもう幾年も経つなんて不思議な話だ。

昨日のことの様に最後の笑顔を思い出すことができる。
それはまるで夏の日の蜃気楼のように、瞼に浮かんでは消えていく。
触れることなど出来ない、私の大切な大切な記憶。



今でも思う。
あの日交わしたあなたとの約束のこと。
いつかもしあなたに会うことが出来たなら、問いたい。
あなたが命をとして救おうとした大切なものを、私は守ることが出来たのかと。



間もなく北の地は空が高くなり頬をなぞる風が冷たくなる。
今年もまた、永い永い冬が始まる。
雪が降れば私はきっと、また思い出す。
あの日あなたと見た空。
手の平に溶けたあの雪の白さを。
落ちては消える雪を見て、あなたがあの時何を思っていたのか聞かなかった事。
些細な、唯一の、後悔。







追伸、
あなたと生きたあの日々が、この世界に確かにあったのだと思うからこそ、私は今も生きていける。
いつか私の命に終わりが来て、いくつもの時代を流れてもう一度あなたに会うことができたなら。

(叶うなら二度と手放さない。)




それまでの、さようなら









「手紙」
雪華録によせて