よくある恋の話



千鶴は眠りに落ちる直前右の眉がピクピクと2回程痙攣する。


おそらくは本人すら気づいていない、親しい家族以外に知っているのは俺ぐらいなものであろう、可愛い癖だ。



「平助くんが、あの人ならよかったのに。」
千鶴は残酷に呟く。
そしたら何も緊張せずに話せるのになぁと。



千鶴から好きな人を前にすると緊張して話せないと相談を受けたのは三ヶ月前。
まるで雷に打たれたような衝撃を受ける俺の横で、幼なじみは切ない笑顔を向けている。


だったら、と。
「俺が練習台になってやるよ。」
俺だったら緊張せずに喋れるだろうと言うと、ぱぁっと顔を明るくする千鶴。


そんなきっかけで変わりはじめた幼なじみの関係。
目を見て話し、手を握り、柔らかい唇に触れたとき、泣きそうになったのを彼女は知らないだろう。



平助くんならよかったのにと今にも閉じそうなまぶたの奥で大きな瞳を揺らしながら言った。
「ばあか」と、やっと発することの出来た、消えてしまいそうな声の反論は聞こえただろうか。



静かな寝息をたてる彼女を静かに抱きしめる。
力を込めれば折れてしまいそうな体を恐る恐る引き寄せて、前髪の間から少し見える形のいい額にキスをする。



この柔らかな体をいつか彼は抱くのだろうか。
彼女の眠りに落ちる瞬間の癖を見つけて、笑うのだろうか。




この曖昧で、愚かな関係の引き金を引いたのは、紛れも無く自分だ。
自分の気持ちを、彼女の気持ちを、幼なじみという関係を―――――。

残酷に利用した、可哀相な恋。





いつか、この関係にも終わりがくるだろう。
「最後」など、始まる瞬間に覚悟している。


(きっと、泣くかもしれないけれど。)

自分ではない、誰かの横で笑う彼女に、
おめでとうと言う準備はできている。




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