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口が聞けない女の子と鐘会5




は、と目が覚める。
窓から日が射して、いつもと対して変わらぬ朝。

手をもぞつかせ、隣が冷たいことに気付いた。



「……ッ?」


目を動かす。



いない。 いない。 いない。



いない…、いないいないいない!!!!



「いない…ッ?!」



そんな。
あれはもうここにはいない。



信じたくなくて、名前を呼ぼうとして、気付く。


「…私は、あいつの名前を…」



聞いてなかった。
彼女は喋れなかったから。
私が知る言葉を話さなかったから。

側にいればいいと、名前を知ることを放棄していたのかもしれない。



「………」


彼女は帰った。
どこへ?
知るか。
何をしに?
知るか。
誰の元へ?
知るか。



…知りたくもない。



名前さえ、知っていれば、彼女に、愛を伝えることが出来ただろうか。





(愛していたのにさようなら?)



end

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