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企画提出


「かついえさま」


鈴を転がしたような声で自分を呼ぶ。
きらびやかな、しかし派手ではない服を着て、まん丸く黒い瞳をこちらに向けている。


「…如何した。」


いつも通りの幼娘に溜め息混じりで返答すれば、娘は黙った。
何かを言い澱んでいるようにも見えれば、只自分の仕事を邪魔しているようにも見えた。

貴方も私を弄ぶのか。
そんな言葉が出掛かったが、聡明な彼女のこと。何か理由があるのだろう。


「すこし、やすまれては」


尻すぼみになる言葉を聞いて、首を振る。


「な、ぜですか…」

「休めとは聞いていない以上、休息は取れない身の上故に。」


そう自嘲気味に笑えば、目の前の娘は俯いた。
何か、いけなかったのだろうか。

ぱたり、と音がして、伏せていた目を上げた。
彼女は何をしている?

黒い髪を簾のように垂らし、手の甲を目に当て、声を殺して、泣いている。


「どう、どうして、何故、泣くのだ?」


慌てて手首をつかんで顔をあげさせた。
彼女の泣き顔など初めて見た己は今相当間抜けな顔をしているのだろうと思った。

頬を紅潮させながら、また俯いて首を振る。
涙声で必死に言葉を紡いでいる。



「だって、かついえさまが、ちっとも、お休みになさらなくて、わたし、かついえさまが、しんじゃうって…っおもった…からぁっ…」


ひくひくとしゃくりあげながらぎゅうぎゅうと小さな両の手のひらで私の手を握りしめる彼女を、心底愛しいと感じた。


「心配は無用だ、私は、…なんだ、丈夫であるが故…。」


口をついて出たのは慰めともあやし言葉とも取れぬ根拠無き物。
自分は何を言っている、と発した後で思った。

しかし、私のそんな言葉に彼女は涙を滲ませた瞳でこちらを見る。


「ほんとう…?」

「ああ、本当だ。…だから、どうか泣かないでくれ。貴方の涙は、私をも傷付けるが故に…。」


そう彼女の頭に手をのせて撫でれば、きゅう、と口端をあげて笑う。
目を擦って涙を拭うので、私はまた慌てる。


「あか、赤くなるだろう、擦っては駄目だ。」


聞いているのか、いないのか、不意に此方を向いた黒い瞳はまた私に問い掛けた。


「かついえさま、ほんとうに、おからだをこわしたり、しないんですね?」

「ああ、しない。」

「よかったあ…!」


下腹部に軽い衝撃と、暖かい身体。
黒い髪を撫でてやると、ふふ、とくぐもった愛しい笑い声が聞こえた。





(この指先できみの心を融かせるなら)






企画*お嬢さん に提出。



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