恋人たちで溢れるクリスマス。
思い出すのは彼のこと。

高校で知り合って。
それからずっと一緒にいた。
好きになった日のこと、告白した日のこと。
デートした日のこと。喧嘩した日のこと。
そして別れを告げた日のこと。
全部鮮明に覚えている。

君との恋は最初で最後だから。





あいつはずっとバンドをやってて。
あいつの歌が好きだった。
見た目とは正反対の繊細な歌。
あいつの紡ぐメロディが好きだった。

だから……、
俺の存在があいつの活躍を妨げるなんて絶対に嫌だった。
その話を聞いたのはたまたまだった。

「なぁ、俺さ…、スカウトされたんだがよぉ、」

「へぇ?よかったじゃねぇか、夢だったんだろ?」

「あぁ、でもよ……、デビューするには東京に行かなきゃいけねぇんだと。」

「……行きゃいいじゃねぇか。二度とないチャンスだろ。」

「……あいつを置いてくわけにはいかねぇ。あいつはあの人を喪って以来、誰かに置いていかれることに酷く怯えてんだ。そんなあいつを置いてけねぇ、だからといって連れてくわけにも……。」

「……夢が恋人か。どちらか一つか。
どちらを選ぶのかはお前次第だが……、恋人も守れない奴に恋の唄を歌う資格はないと思うぜ?なぁ元親。」

空き教室で会話する恋人と友人。
その話は初耳で、ショックだった。
あいつの夢か俺。
天秤にかけるまでもなかった、


「なぁ元親。」

『どうした?』

「別れよう。」

『は?おいちょっとまて!!慶次!』

「さよなら」


面と向かっていう勇気はなかったから電話をかけた。
焦ったような恋人の声が聞こえたけど、
それには返事を返さず、電話をきった。
そのまま電源を落とし、恋人たちが溢れる街へと歩きだした。

丁度一年前のことだった。





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