男はいらない。 物心ついて一番始めに言われた台詞がそれだった。 兄が二人いて跡継ぎはいらない。 ならば嫁に出すことの出来る女の方が都合がいいのだろう。 女として育てられたこともある意味当然なのだろう。 「…葵よ。其方は伊達軍に嫁げ。有無は言わさん。」 「…わかりました。お相手は…?」 いつかくるだろうと思っていた。 某が幸村ではなく、葵として育てられた意味。 政略結婚。 国のため、民のため。仕方のないことなのだろう。 愚かなものだ。 ばれないとでも思ってるのか。 今は大丈夫でももう少しすれば体格よくなってくるだろう。 大体夫婦になれば夜も共にするというのにどう隠し通せというのか。 暴露たらこの命はないだろう。 そこまで見込んでの政略結婚か。 「伊達家嫡男。伊達政宗だ。輿入れは一月後。用意しておけ。」 「はい。」 随分急なものだ。 それほどまでに某の存在は邪魔だったのだろう。 「…父上。一つお願いが御座います。」 「なんだ。」 「…佐助を連れて行きまする。女中として。」 「あの忍びをか…。ふん。好きにすればよい。」 「……では失礼いたしまする。」 父の部屋を出て自室に向かう。 輿入れの用意といっても持っていくものなど何もない。 佐助に頼めば適当にやってくれるだろう。 「ちょっと旦那!!」 「なんだ。」 「なんだ。じゃないよ!俺様を女中として連れて行くってどういうことさ!!」 「声を潜めろ。別に構わないだろう。」 天井に潜み会話を聞いていたのだろう。 佐助が姿を見せて文句をいってくる。 佐助の意見はわからなくもないが、子供の頃から一緒にいたのだ。今更離れることなどできまい。 「俺についてくるだろう?佐助。」 「……はぁ。どこまでもお供しますよ。葵様。」 輿入れまであと一月。 . しおりを挟む back |