長い帰路の涯。 たどり着いた奥州青葉城。 輿の外で従者が会話しているのが聞こえる。 「葵様。体調は如何ですか。」 「問題ありません。それより外に出たいのですが。」 外で会話しているのが誰か気になった。 輿を出迎えるくらいだ。それなりの地位の方だろう。 挨拶しておきたかった。 「私が先に出ます。少しお待ちください。」 そういって輿をおりる佐助を見送る。 外から聞こえる声が少し大きくなった。 「葵様。どうぞ。」 御簾があがり佐助が顔をだす。 「えぇ。ありがとう。」 輿から降りて見えたのは茶色の陣羽織。 しっかりまとめられた髪に頬の傷。 「貴方は……。」 「伊達家家臣片倉小十郎だ。」 「お噂は予々聞いております。葵と申します。どうぞよしなに。」 竜の右目。 彼の噂は上田城にも届いていた。 軍師としての腕が素晴らしく今の伊達軍の発展は彼のおかげだろう。 頭を下げようとすると止められた。 「おやめください。」 不思議に思い顔を向けると眉間に皺をよせた片倉殿。 「貴方は政宗様の奥となる方。 私に頭を下げる必要など御座いません。」 その言葉には生真面目な彼の性格が現れていて。 感心してしまう。 主の奥になるとはいえ敵だった某を敬うその心。 「……素晴らしい武人ですね。」 小さく本音が漏れてしまう。 それが聞こえたのか、眉間の皺が消え微笑んでくれた。 「参りましょうか。政宗様がお待ちです。」 歩き出した三日月を追って城に入った。 . しおりを挟む back |