恋い焦がれて。

何人もの人を殺めてきた。

これはその罰なんだろうか。

仲間が、唯一無二の主が、恋人が死にゆくのを見続けた。

あれからどのくらいの月日がながれたのだろう。
そんなこともうどうでもよかった。
ただ、早く死にたかった。
いつか訪れるであろうその日をこの寂れた社で待ち続けた。

天狐。

己がそう呼ばれているのを知ったのは最近のこと。

そういえば頭上に三角の耳が、
尻に長い尻尾が生えていたなと、ふと思う。

人としての天命をまっとうして。
人ならざる存在になったのはいつのことだったか。
もうわからない。

大切な人がいた気がする。
焦がれてどうしようもない人。
忘れてしまった。

今の己はただ死を待つのみ。


ぼんやりと物思いに耽っていると社の外から声がした。

「この社だろ?天狐がでるっていうのは。」

「まことでござるか!!是非お目にかかりとうござる!」


煩いなぁ………。
社に天狐がいる。
誰が広めたのか。殆どこの社からはでないから誰にもみられていないはずなのに。
以前から肝試しにこの社を訪れる子どもはいたが、最近は特に多い。

「こら、やめておけ。怪しい所に入るんじゃない。」

聞こえてきたのは大人の声。
この声聞いたことがある……?
どうしても気になった。普段なら人が去っていくのを待っているのに。

社の扉を開けて外の様子を見る。

外にいたのは男の子二人と成人男性。
男性に目が奪われた。
乱れのない髪に強面の顔、頬の切り傷。

見たことのないひとの筈なのにどこか懐かしい。

胸が暖かくなった。
人ならざるものになってから初めての感覚。

視線を感じたのか男性が此方を向いた。
目があった。その瞬間、男性の表情が驚きに変わる。

「さすけ……、」

小さく紡がれた音。
それが己の名だと。
かつてそう呼ばれていたのだと。
思い出すのに時間はかからなかった。
それが、引き金となって全てを思い出す。
どうして忘れていたのだろう。
こんなにも大切な人のことを。

「小十郎さん……!!」

社を飛びたし小十郎さんに飛びつく。
力強く受け止めてくれた彼の温もりは記憶の中にあるものと変わらない。

「ずっと……!ずっと探していた!!他の連中は見つけたのにお前だけが見つからなかった。」

「……っここに、ずっとここにいたんだよ……!!」

思い出した。
何故この社にとどまっていたのか。
逢瀬の場所だった。
小十郎さんと。
他国の軍師と忍。二人で会える場所は限られていた。
いつもこの場所で逢瀬を重ねていた。
ここにいたら会える。
そう信じていた。

「遅くなって悪い……、もう二度とはなさねぇ。」

「……うん。ずっとそばに。」


背中に腕を回し強くだきしめる。
温もりをたしかめるように。
この人を離さないように。

何百年越しの逢瀬。
姿は変われどこの想いは変わりはしない?


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