記憶の欠片



………ち、市。

名前を呼ばれている。ずっとずっと昔から。
誰に呼ばれているかはわからない。
その声は切なくでもどこか懐かしい。
その声を聞くと心がほんのり暖かくなる。

……不思議な感覚だった。

目を開けると見慣れた天井。いつもの光景。
兄様と暮らす家の自分の部屋。
いつもと変わらない部屋。
でも何か違和感があった。

「………なに?」

何だろう……。
わからない。
ベットから降りて違和感を探す。
ふと、本棚の一冊の本が目に入った。

「こんな本持ってた……?」

紺色のカバーの古びた本。
それは見慣れないものだった。
本棚にある本は全て覚えている。
パラパラとページをめくっていくと付箋の貼ってあるページを見つけた。

「……花の誓いを忘れるな、」

付箋部分に書かれていた言葉。
読み上げたその言葉が誰かの声と重なった。
ずっと昔、泣いてばかりの市にその約束をくれたひと。
ずっとずっと名前を呼んでくれているひと。

「………っさま!!長政様!!」

名前を呼んだその瞬間、
全ての記憶が蘇った。
「……いかなきゃ、」

部屋を飛び出し街中を走る。
何処にいるのかなんてしらない。
でも会える気がした。


「………っ、長政様!!」

振り返ったその人は、記憶と違わず優しい顔をしていた。




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