一つの賭け。
どうしてだろう。
あの人を憎んでいるはずなのに。
その慟哭が、あの人を求めてやまないように聞こえるのは。
ずっと疑問に思っていた。
三成さまは何故あれほどまでに家康に拘るのか。
裏切られて憎い。
殺してしまいたい。そう思うなら暗殺でも頼めばいいのに。
あくまでも自分で手にかけることに拘る。
それがただの憎しみとは俺には思えなかった。
賭場で会った慶次さんにそう漏らした。
軍の連中には言えない。でも誰かに聞いて欲しくて。
俺の独白に慶次さんは目を見開いて驚いた顔をした。
「へぇ……。案外ちゃんとみてるんだねぇ。」
「え……?」
「………昔、まだ秀吉が生きていた時。あの二人は恋仲だったんだよ。」
「…………はぁ!??」
慶次さんから聞かされた二人の過去。
今の二人からは想像出来ないその関係。
「本当に仲が良かったんだ……、戦友、恋人として。信頼しあっていた。」
「ならっ……!ならなんで家康は三成様を裏切ったんですか!?二人が今も一緒にいたなら、三成様は……!!」
「泰平の世を築くためだろうねぇ……。」
そう呟いた慶次さんも遠くを見つめて何処か寂しげで。
彼も何かを犠牲にしたのだろうか。
泰平の世のために。
「……俺にはわからないっす。大切な人を犠牲にしてまで築く泰平に意味があるのか。それは本当に泰平なのか。民が笑ってても三成様と家康が哀しんでるなら意味がないじゃないですか!!」
「気持ちはわかるけどさ、犠牲ひとつない泰平なんてのはないと思うよ。」
解らない。俺には。
慶次さんの言ってることも。
家康がしたいことも。
ただ一つわかるのは三成様は今でも家康のことを想ってるんだろう。
愛しているからこそ自らの手で、家康を。
俺に出来ることはただ一つ。
三成様を家康のところまで連れて行くこと。
そこから先は三成様次第だ。
今の三成様なら間違いなく家康をてにかけるだろう。
でも俺は一つ賭けをしようと思う。
三成様の心にまだ家康を想う心があるだろうから。
二人が築く泰平の世があると。
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