愛しき腕に抱かれて。

奥州白石城の一室。
この場所は俺様にとって気が休める所だった。
今この時までは。

「来いって言ってんだろ!」

「だから嫌だっていってんじゃん。忍びが布団で寝るわけにはいかないの。」

断り続けてるにもかかわらず、しつこく俺様を布団に誘う恋人、片倉小十郎のせいで。

「ったくなんでてめぇはそんな頑固なんだ。」

「あんたに言われたくないっての。」

事の始まりは仕事終わりに白石城に寄った事。
最近会えてなかったから会いたくて、夜も更けてたけど我慢が出来なかった。
寝てると思ってたから一目みたら帰るつもりだったのに。
執務をしていた小十郎さんに見つかり、何故か泊まって行くことになった。
それはいい。泊まったことなんて数えきれない程あるし、今から上田に帰るのも面倒だし。問題は小十郎さんが布団に寝かそうとすること。

「いつも布団で寝てんだろうか。」

「それは……。だっていつもは意識ないし…、改めてってなると恥ずかしいし…。」

「ったく、てめぇは。いいから早く来い。じゃねぇと俺が寒いだろうが。」

「ずるい人だね。あんたは。」

…本当にずるい人だ。
素直になれない俺様の心を見透かして素直になれる様に促してくれる。不器用な優しさ。

「今日だけだからね。」

そういいながら布団に入ろうとすると先に布団に入っていた小十郎さんに腕を引かれた。

「えっ。」

その勢いのまま小十郎さんの腕に頭を乗せられる。
つまり腕枕。

「ちょっ、何にして…!」

「うるせぇ。黙って寝ろ。」

「寝れるわけないだろ!!あんたが疲れるだけだろこんなん…!」

頭の下にある小十郎さんの腕を抜こうとするけど、強い力で胸に引き寄せられて抜けなかった。

「たまには甘えろ。」

「今でも充分甘えてるっての。」

「足りねぇ。」

「足りないってあんた…。これ以上俺の心暴かないでよ…」

小十郎さんの言葉は毒みたいだ。甘い毒。じわじわと浸透していく。気づいた時にはもう手遅れ。


「俺の前では忍の仮面を被るな。一人の男でいろ。」

「敵わないや。小十郎さんには…。」

「…好きだ。佐助。」

小十郎さんの言葉が嬉しくてでも照れ臭くて…。
俺様もだよって言いたいけど、素直になれないから。
小十郎さんの着物をぎゅっと握りしめた。
俺様のことを好きでいてくれる小十郎さんにはきっと伝わる。
その証拠に抱きしめる力が強くなった。

「おやすみなさい…。」

小十郎さんの腕に抱かれて幸せな気持ちで眠りについた。


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