手放さない


城内の人は皆慌ただしく動いていた。
婚儀に向けての準備を進めているのだろう。
本人の心を置き去りにして。

「はぁ、」

婚姻を告げられて数日がたった。
城内に漂う祝福ムードが嫌であれ以来ずっと庭園に篭りきりだ。
逆らいたくても逆らえない。
それでもこの恋をあきらめきれず抗う方法を探している。

「他には何も望まないから、小十郎がいればそれで……。」

望んでいるのは小十郎だけなのだ。
地位も名誉も何もいらない。

「手に入らないならいっそ…。」

この数日で心の整理をつけた。
一人決意を固める。
翌日。
広間にこの国の重臣が集まっていた。
もちろん、王様である父も、王子たる兄上たちも。
今日は旅立ちの日だ。
俺が隣国に旅立つ日。
でも俺は旅立つ気はなかった。
懐に忍ばせたものの感触を確かめながら前に進んだ。
王様の真っ正面で跪く。

「佐助。お前にはこれから隣国に行ってもらう。この国のために精進しろ。」

応えは返さない。
顔をあげ王をまっすぐ見つめる。
斜め後ろに控える小十郎の姿が見えた。
小十郎にそっと微笑みかけ懐に忍ばせていたナイフを取り出し首筋に当てる。


「なっ…!!」

小十郎が慌てて立ち上がったのが見えた。
他の家臣も立ち上がったのか周りが騒がしくなった。

「俺は…、あんたらの思い通りにはならない。」

ナイフをもつ手に力をこめた。
刃が首に食い込む感触の後、血が伝うのがわかった。

「佐助様…!!おやめ下さい!!」

目の前に飛び出してきた小十郎。
冷静沈着な小十郎ですら焦った顔をしていた。
普段は見れないその表情に胸が高鳴る。
この男に心底惚れている。

「止めないよ。止めない。」

「何故!?」

「小十郎と離れるなら死んだ方がましだ!!知ってたくせに!俺の気持ちに気づいてたくせに!!」

「それは……。」

否定しない、つまりは肯定。
人一倍聡くて、俺のことを幼少からみてきた小十郎が気持ちに気づかないはずがなかった。

「……さよなら。」

手に力を込めて全てを終わらせるつもりだった。
覚悟していた痛みはこなくて、代わりにきたのは暖かい温もり。

「悪い……。そこまでお前を追い詰めていたとは思わなかったんだ。」

上から聞こえた声に、小十郎に抱きしめられているのだと理解した。
張り詰めていた糸がきれて体の力が抜けていく。
同時に涙が溢れてきた。

「小十郎……!!す…、」

「その言葉は後ほど。まずはここを逃げ出しましょう。」

気持ちを伝えようとしたら唇に指を添えられた。
そして小十郎に手をひかれて走り出す。
広間を出て向かうは城門。

「…っ追え!!」

その言葉と同時に驚きで止まっていた家臣たちも動き出した。
追いつかれないようにひたすら脚を動かした。
これから先どうなるかは分からない。
でもこの手をひいて前を走ってくれる小十郎がいる限りきっと大丈夫。





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