君とお揃い。
嫌いだったこの髪色。
でも染めるつもりはなかった。
周りに負けた気がするから。
流されたくなかった。
「本当にいいのか、佐助。」
「うん。いいよ。」
「はぁ、ったく。」
呆れたように溜息をついた親ちゃん。
なんだかんだいって優しいから俺の望み通りにしてくれるだろう。
頭を触る親ちゃんの手を感じながら目を閉じた。
「終わったぞ。」
「ありがと。」
その声に目を開けて鏡を見る。
鏡に映る自分は見慣れた顔なのに、違和感を拭えない。
「結構印象変わるねー。」
「当たり前だろ。オレンジから焦げ茶にしたんだから。」
「ねぇー。」
親ちゃんに頼んだのは毛染め。
美容院にいくお金はないから、手先が器用な親ちゃんに頼んだ。
地毛のオレンジが綺麗に焦げ茶に染まっている。
悪くないなと思った。
「何で突然染めたんだよ。今まで絶対染めなかったじゃねぇか。」
「んー、気分転換?」
親ちゃんの言うとおり、今までは誰に何を言われようと染めなかった。
教師に絡まれることも多かったけど、意地でも染めなかった。
「さてと、じゃあ俺様帰るねー。ありがとね。」
何か言いたげな親ちゃんに手を振り部屋を出る。
焦げ茶色になった髪を弄りながら家に向かう。
明日騒がれそうだなー。
旦那とか特に。
誤魔化せるだろうか。
本音を言っても構わないのだが。
「佐助?」
後ろから名前を呼ばれて振り返れば、驚いた顔をする恋人。
「小十郎さん。仕事終わり?お疲れ様。」
声をかけても返事が返ってこない。
小十郎さんは呆然と此方を見ている。
「?あぁ、これ?似合う?」
視線の先が髪の毛だと気付いてそう返したら、小十郎さんの眉間の皺が深くなった。
「小十郎さん?」
「……誰かに何か言われたのか。」
「え?」
「今まで染めなかったじゃねぇか。何言われた。」
此方に近づき詰め寄ってくる小十郎さんに戸惑いが隠せない。
その顔は険しいままで。
勘違いしてる?
俺様が髪を染めたのをいじめられたからだと…?
「……違う。違うよ小十郎さん。いじめられたわけじゃないよ。ただ…。」
「ただなんだ。言え。」
「……お揃いにしたいなって。」
「あ?」
「…小十郎さんと!!お揃いにしたかったの。」
社会人の小十郎さんと高校生の俺様とじゃ距離がありすぎて。
それがどうしようもなく悔しくて。
髪の色を同じにしたら近づける気がした。
それに一つだけでもいいからお揃いが欲しかった。
「……はぁ。そんなことか。」
「そんなことって!!俺様は真剣に…!」
「お揃いが欲しいなら指輪でもくれてやる。だから髪は戻せ。」
「……本当?」
指輪。本当はずっと欲しかった。女々しくて言えなかった。
嬉しい。
思わず頬が緩んでしまう。
でも、
「髪は戻さないよ。先生にも染めろって言われてたし。」
「……戻せ。」
「なんでさ。」
頑なに戻せと言われて眉間に皺がよってしまう。
結構気にいってるのに。
「好きだからな。お前の橙色。」
「……ずるい。そんなこと言われたら戻すしかないじゃん。」
好きだと言われたら戻すしかない。
自分の好みよりも小十郎さんの好みの方が大事だ。
「ちゃんと戻せよ。指輪は今度の休みに買いに行くぞ。」
「うん!!」
小十郎さんに言われた通り髪色は戻すけど、もう少しだけお揃いの髪色を楽しもうと思う。
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