夏の夜の夢



学校の怪談。
どの学校にも一つや二つ怪談話があるだろう。トイレの花子さんだったり、数が増える階段だったり。
大抵がよくある話だろう。
でもうちの学校の階段は少し変わっていた。
二階の音楽室の窓際。
そいつはそっと佇み人が近づくと手を差し出すらしい。
何かを求めるように。
こちらが何もしないと姿を消す。
何をするわけでもない。
ただそこに佇んでる。何を待ってるみたいに。
その幽霊はずっと昔からそこにいるんだと。

「なぁなぁ!!学校の怪談の話知ってるだろ!?」

「あぁ。それがどうした。」

授業が終わるなり俺の席に飛びついてきた慶次。
高校に入ってから知り合ったのに昔からの知り合いみたいに仲がいい。
不思議なことにそんな奴等がこの学校にはいっぱいいる。

「肝試ししようぜ!!夏休みだし!!」

「お!いいな!いつやるよ?」

慶次の声が聞こえたのか元親も俺の席に近づいてきた。

「んー、いつでもいいけどなー。」

「なら今日やったらどうだ?後はバイトとかあるだろうしよ。」

「そうだね!誰誘おー。政宗と元親と佐助とー……。」

「おい。待て。何で俺も入ってんだよ。」

盛り上がる二人の話を適当に聞いていたら自分の名前があがり思わず止めに入る。
きょとんとした顔を此方に向ける慶次に苛立ちが募る。

「え、何で?いくでしょ?」

「いかねぇよ。めんどくせぇ。」

「えー。」

慶次から不満の声があがるがそんな面倒なことに顔つっこみたくねぇ。

「まぁまぁ。いいじゃねぇか、慶次。」

「えー、でもさ…。」

「怖いんだろうよ。政宗は。そんなやつ無理矢理連れてったら可哀想だろ?」

「あーそうだね…。なら俺らだけでいこうか!」

にやにやしながら会話する二人に苛立ちがピークに達した。

「……ちっ。いきゃいいんだろ。いきゃ!!」

売り言葉に買い言葉。
言った途端慶次の目が輝き出す。

「やった!!じゃあ今日の夜校門集合ね!!」

「……わかったよ。」






「あ、政宗きた。遅いー。」

「うっせぇよ。」

夜になり渋々学校に向かう。
校門には、既に元親、慶次、佐助が既に集まっていた。
学校は遅刻するくせにこういう時だけ早えんだから飽きれる。

「よし。じゃあいくか!」

「校舎しまってんじゃねぇのか。」

元親の言葉に従って校舎に入ろうとしたが、この時間は校舎は施錠されてるはずだ。
校門は乗り越えるとして校舎に入ることはできない。

「それは俺様に任せないって!新聞部の部室の窓開けてあるから!」

「……こういうときだけ準備万端だな。」

本当に悪ノリが大好きな奴らだ。
まぁ一緒にいて飽きねぇが。

「じゃ。行きますか!」

今度こそ校舎に入り二階の音楽室を目指す。夜の校舎は静まりかえっていて不
気味だ。
いつも通ってる場所とはガラリと変わって見える。
まるで始めて来たかのように。

「……ついた。」

雰囲気に呑まれたのか誰も話すことなく足を進めたどり着いた音楽室。

「……開けるよ。」

「待て。俺が開ける。」

扉に手をかけた慶次を止める。
俺が開けないといけない。
何故かそんな気がした。

「……いくぞ。」

高鳴る胸を抑えて扉を開ける。

燃えるような紅。

目に飛び込んできたのはそれだった。

「……だんな……。」

後ろで小さく佐助が呟いた。
紅いジャケット。紅い鉢巻。
そして背中に描かれた六文銭。
それを認識した瞬間、脳裏に様々な光景が蘇った。

戦場の喧騒。刀のぶつかる音。馬がかける音。俺を呼ぶ声…。
政宗殿!

「幸村……。」

その声に反応して影が此方を向いた。
此方見つめるその顔は記憶にあるものと変わらなくて。
違うのは実体がないということ。

「なんで……」

他の者は皆現代に生まれ変わっているというのに。
何故幸村だけが…。
そこまで考えてふとある光景が過った。


『これを持っておいてくだされ。』
差し出されたのは幸村が肌身離さず持っている六文銭。
『Ah…?お前が持ってなきゃ意味ねぇだろうが。』
『えぇ。ですから待っていてくだされ。三途の川の辺で。某が先だった場合は待っております故。』
『成る程な……。』

手渡された六文銭。確かに受け取った。
だが俺はどうした…。
待っていなかった。先に渡っちまった。
だから……。

「ずっと待っててくれたんだな。ごめんな。」

幸村は此処で待っていたのだろう。
俺が六文銭をもってくるのを。
400年もの間ずっと。

「ごめんな…。」

幸村に近づき、首にかけていた六文銭を手に乗せる。
知らない間に持っていた六文銭。
小十郎に聞いたら物心つく頃にはもう持っていたらしい。
これは遠い昔に幸村が俺に預けたもの。
六文銭を受け取った幸村の姿が徐々に消えていく。

「……来世で待ってる。」

淡い微笑みを残して幸村の姿は消えた。
ずっと待っててくれたから。
今度は俺の番だ。
お前に再び逢えるその時まで待ち続けよう。








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