ミヤコワスレ

好きだった。
俺様にはないものをたくさんもってるあいつが。

忍びの俺様を大切に思ってくれてるのは知ってた。
幸せだった。
でもさ、気付いちゃったんだよ。
あんたの心にいるのは俺様じゃないって。

通い慣れた部屋の真ん中にそっとミヤコワスレを一輪置いた。

この部屋には思い出が詰まってる。
忍びの俺様を人として扱ってくれた大切な思い出が。
でももうこの場所にはこない。

「さよなら…。慶次。」

上田に戻りいつも通りの生活を送る。
旦那の世話して、部下に指示して、鍛錬して。

いつもと同じ生活の筈なのに。
心にあるのは虚無感。
心に大きな穴が空いたみたいだ。
心を持つなんて忍び失格だ。

「あんたのせいだよ…。慶次。」

「なにがだい?」

「…なんで。」

突然かけられた声に後ろを振り向けばそこにいたのは今まさに考えていた人がいつもと変わらない笑顔で立っていた。

「なんでって…、どういう意味だよあれ。」

「どうってそのまんまだけど、」

口元は笑ってるのに目が笑ってない。こういう顔をする時は怒ってる時。

「そのまんまって…。ミヤコワスレの花言葉知ってるのか?」

「知ってるに決まってんだろ。知ってておいたんだよ。」

その台詞に慶次の顔がくしゃっと歪んだ。そんな顔をして欲しくなかった。いつも笑顔でいて欲しい。だからあんな形にしたのに意味がない。

「なんでだよ!!俺に悪い事があるなら直すから、だからさ別れるなんていうなよ!」

「何言ってんの…。あんたの為だろ!あんたを思って俺は…!!」

「俺の為…?何言って…」

「まだ好きなんだろ!?ねねって人のこと!忘れられないんだろ!?」

「え…」

慶次の顔が戸惑いを見せた。
駄目だ。これ以上言えば困らせるだけだ。頭ではそう分かっていたが一度外れた箍はもう戻せなかった。

「もう嫌なんだよ…。ねねさんを想って悲しい顔するあんたを見るのが!あんたの心に俺様がいないって…」

腕を引かれぎゅっと抱きしめられ、言葉が途切れた。逞しい腕に抱きしめられ、ときめく胸に慶次がまだ好きなんだと実感させられる。

「ごめん。ほんとごめん。」
「なんに対する謝罪?」

頭の上から聞こえてくる慶次の声は悲しそうで苦しそうで。

「俺、佐助のこと好きだよ。ちゃんと。ねねのことは好きだったくど昔のこと。今は佐助だけだよ。」

「何言って…。」

「何が誤解されたのかわかんないけどさ、佐助が嫌ならもうねねの話はしない。佐助が信じてくれるまで好きだって言う。だから…。だからさ別れるなんて言うなよ……!!俺は佐助がいなきゃ駄目なんだ。」

言い終わると同時に抱きしめる力が強くなった。

「…いいの?」

「え?」

「俺様でいいの…?俺様男だし忍びだし、ねねさんの変わりにはなれないよ」

「佐助がいい。ねねの変わりとかじゃない。佐助だから好きなんだよ。」

その言葉に心が暖かくなった。さっきまで不安に想っていたことが掻き消されていく。俺様にもこの人しかいない。
慶次の言葉で落ち込んだり、不安になったりする。でも元気になったり、笑顔になったりするのも慶次の言葉。
慶次じゃないと駄目なのは俺様の方だった。きっとこれ以上愛せる人はもう現れない。
だから素直になろう。

「好きだよ。慶次。」

俺様の台詞を聞いて笑顔になる慶次を見て、俺様も笑顔になれるんだ。

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