さよならは言わない。
「武田は西軍として関ヶ原に参戦する。お前はどうする、佐助。」
いつになく真剣な顔でそう切り出した大将。
その顔に迷いはみれない。
西軍として名乗りをあげる。それは即ち東軍に与する伊達と対立するということ。
最愛の人と刃を交えなければならないということ。
「どうって…。俺様は大将の背中を守るさ。俺様の命はあんたのものだ。」
「そうか。すまない。」
「……戦の前に少し暇欲しいんだけど。」
「あぁ、構わない。好きなだけ休め」
上田城を出て向かう場所はただ一つ。
愛しき人がいる場所、奥州青葉城。
会うつもりはなかった。ただその姿を目に焼き付けておきたかった。
「さてと、今の時間なら部屋にいるかな。」
休むことなく走り続けて辿り着いた青葉城。
通い慣れた部屋へと脚を向けた。
「……笛?」
微かに聞こえた笛の音。それは以前俺様が好きといった旋律で。
まるで俺がここにくるのを知っていたみたいに。
その音色は哀しく、儚げで。
「別れの言葉ってわけか…。」
さよならを言われている気がした。
秘めた恋だった二人に似合いの別れだろう。
「さよなら。愛してた。」
彼が愛した畑に黒い羽を残して去った。
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