失くした代償。


…ごめん、悪かった。
そう言葉にしようとしてでも言えずに口を閉ざした。
泣いていた。嗚咽を堪えて涙を見せない様に俯きながら。
……俺のせいか。
感情を殺さなければならない忍びの佐助が泣くことなど滅多にない。
その佐助が泣いている。

「…佐助。」

「……っなに。…っ。」

静かに震えるその肢体を抱きしめようとして、それが無理なことに気付いた。
あぁそうか。

「…もうお前を抱きしめられないな。」

静かに呟いたその言葉に佐助が顔をあげた。
その顔は涙に濡れてて目も真っ赤で。


「なんでっ……、なんで俺様庇ったの!!一国の主のあんたが……忍庇って腕失くすなんて…!!


俺の右腕は、肩から先がない。
今着ている羽織の右腕も力なく垂れ下がっている。

「仕方ねぇだろ。」

先の戦。徳川が武田を攻め入ったその戦場にたまたま居合わせた。
手出しはしないつもりだった。してはいけなかった。
一国の主として、今徳川を敵に回すのはまずいことくらいわかっていた。

「…あんたが怪我するの黙って見てられるか。」

そんな建前は、佐助が切られそうになっているのを見た瞬間何処にいってしまった。
一般兵なら対したことはないだろう。
だが、佐助が対峙していたのは戦国最強と名高い本多忠勝。
その一太刀は重く鋭い。
まともにくらったら命も危ない。
そう思ったら身体が勝手に動き
、気付いた時にはその刃を我が身に受けていた。
その後のことはよく覚えていない。
ただ佐助の泣き叫ぶ声だけが耳に残っている。
佐助を庇ったことを後悔はしてない。することもないだろう。

「……泣くなよ。」

佐助が感情をぶつけてくれるのは嬉しい。でも泣かれるのは嫌だ。
どうせなら笑顔をみせて欲しい。

「誰のせいだとっ……。」

「俺のせいだな。悪ぃ。」

「……違う。俺がっ…、」

「なぁ、佐助。もうお前を抱きしめられない。戦うことも難しくなるだろう。それでも……俺と一緒にいてくれないか?」

俺の言葉に大きく頷き、微笑んだ佐助。
その笑顔を護るためなら右腕くらい失くしたって構わない。







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