愛しき君を。
真田の大将への報告を終え、すぐさま小田原へと向かう。
部下から上がってきた信じ難い報告。それは…
独眼竜が小田原で討死した。
とのこと。
真田忍隊は優秀だ。俺様に報告したってことはその情報は確かだってこと。少しでも怪しい情報であれば報告しないように普段から口うるさく言っている。
それでもこの目で見るまでは信じられない。
「嘘だろ…。」
必死に脚を動かし辿り着いた小田原城。
そこにあったのは力尽きた兵士達と、破り捨てられた蒼い旗。
旗に描かれているのは竹に雀。
即ち伊達軍の旗。
「嘘だろ…。」
戦場に脚を踏み入れ辺りを見渡す。わかっていたことなのに受け入れられなかった。
負けるなんて思ってもみなかった。
いつだって自信に溢れていた。
独眼竜とその右目。
その名に相応しい強さを持った二人だった。
その二人が今はもう…。
「…ちくしょう!!」
守れなかった。当たり前だ。
仕える主が違う。敵国同士の二人だ。死に目に会えぬことなどわかりきっていた。それでも愛した人を守りたかった。
「ーー!!ーーーー。」
「ーーー。」
「え…?」
風に乗って聞こえた誰かの言い争う声。聞き間違えかもしれない。でも確かに小十郎さんの声だった。
「小十郎さん…!!」
声の聞こえた方に脚を向ければ、
そこに居たのは膝をつく小十郎さんと刀を構える石田三成。
石田の刀が振り下ろされるのを見た途端、身体か勝手に動いた。
「…っ…くっ。」
「佐助!?」
小十郎さんに向けて降ろされた刀を身体で受け止める。
手裏剣で受け止めたかったけど、間に合わなかった。
切られた所が徐々に熱くなる。
耐えきれなくなって地面に倒れこもうとしたら小十郎さんに受け止められた。
「佐助っ!おい!佐助!」
「……小十郎さん…。」
「お前…。なんでっ!!」
小十郎さんの顔は悲痛に歪んでいて泣き出しそうで。
「…………っ、」
そんな顔しないでよ。そう伝えたかったのに言葉にならなくて。
腕の力もどんどん入らなくなっていく。
あぁもう時間がない。
ごめん。大将。
あんただけでも生きてくれ。
あと……。
「こじゅろ…さん。」
「喋るな!!佐助…!頼むから!!」
「……あいしてるよ。」
「っ佐助ぇぇぇぇ!!」
小十郎さんの悲痛な叫びを聴きながらそっと瞼をおろした。
ねぇ小十郎さん。
もしまた会えたなら。
今度は隣で笑いあいたいね。
あんたに会えて幸せだった…。
さよなら。最愛の人。
.
[ 10/45 ]
[*prev] [next#]
[小説一覧]
[しおりを挟む]
[
しおり一覧]