優しさに包まれて。
甘えろ。
なんて簡単に言ってくれるけどさ。無理なんだって。わかるだろ?
俺様の性格上素直になることなんて出来ない。
「進路希望か…。」
二人のことなら未だしも、俺様の個人的なことで小十郎さんの時間を潰すことなんて出来ない。
仕事に忙しい人だから尚更。
「はぁ。」
「佐助?どうしたのだ。」
「いや、ちょっとねー。」
「何かあれば俺も頼れ。」
溜息をついていたら、旦那に声をかけられた。
心配してくれてるのだろう。でも旦那にも相談することは出来ない。
高校三年の4月。
周りは殆ど進路希望が決まっている中、俺様は決められないでいた。
行きたい学校はある。やりたいこともある。
「学費がねー。」
俺様が行きたいのは美容系の専門学校。元々髪を弄るのが好きだったから美容師になりたいと思った。その為の専門学校。でも学費が高すぎる。到底今の俺様には払えない額。
俺様には両親がいない。幼い頃に捨てられた所をお館様に拾われた。お館様には今まで十分すぎるほど良くしてもらった。高校の学費も出してもらってるのに、更に専門学校の学費を出してくれなんて言えない。
「就職するか…。」
学費がない以上それしかない。
第一希望に就職とだけ書き、プリントを提出した。
放課後。
学校を後にして、バイトに向かう。バイトは美容師のアシスタント。っていっても高校生だし、掃除とか受付とかだけ。それでもプロの技を見れるだけで楽しい。
ここの店で雇ってもらえたらいいんだけど、専門でたやつじゃないと雇えないって言われたから。
諦めるしかなかったんだよね。
「あがっていいぜ。佐助。」
「はーい。お疲れ様です。」
店長に言われ裏に引っ込む。
着替えながらも携帯を確認すればメール一件の表示。
『迎えに行くから待ってろ』
用件だけが書かれた小十郎さんのメール。素っ気ないけど幸せになれる。
「なんか急用かな?」
大抵の用はメールか電話で済ませる小十郎さんがわざわざバイト先までくるのは珍しい。
小十郎さんはもう来てるだろうから、急いで着替えて外に出る。
「小十郎さん!!」
店の前に停まっている車のそばに立つ小十郎さんがに駆け寄る。
「おう。お疲れ。」
「どうしたの?なんか急用?」
「何を悩んでる。言え。」
「え、…悩み事なんてないよ。」
悩み事…。今思い当たるのは進路のことだけど、小十郎さんには言ってないし…。
「はぁ。とりあえず乗れ。送ってやる。」
「うん…。」
車の助手席に乗り越む。嗅ぎなれた匂いに心か落ち着く。
シートベルトをしたと同時に車が走り出した。
「真田から連絡があった。佐助が悩んでるみたいだから話を聞いてやってくれって。」
「……そう。」
相変わらず旦那はお人好しだ。
ほっといてくれればいいのに。
この悩みを誰かにいうつもりなど無いのだから。
「ごめんねー?疲れてるのに。もう解決したから大丈夫だよ?旦那ってば心配性だからさ。こまっちゃうよねー。」
「……てめぇはいつだってそうだな。人に頼ることをしない。自分一人で解決しようとする。もっと頼ってもいいんじゃねぇのか。真田や俺を。」
「……出来ないよ。」
「あ?」
小十郎さんは忙しいから手を煩わせたくない。元々一人だったから人に頼らなくても生きていける。
「一人で大丈夫だから。小十郎さんに迷惑はかけないから。」
それは子どもの頃からの呪文。
一人で大丈夫。迷惑はかけない。
「はぁ。てめぇのそれが子どもの頃の経験から来てるってのは知ってる。でもな俺はお前の恋人だ。頼れ。迷惑なんざ思わねぇさ。
むしろそうやって一人で抱え込まれる方が迷惑だ。」
迷惑…。その言葉に胸が痛む。やっぱり迷惑だったんだ。
迷惑かけないように頑張ったつもりなのに駄目だったんだ。
目頭が熱くなって来た。駄目だ。今泣いたらもっと迷惑をかけることになる。
「…っ。ふっ。」
「佐助?おい。なんで泣いてんだ。」
「ないてっ…ない。…っ。」
「あーもう。」
その台詞と共に小十郎さんが道の端に車を停めた。
降りろとか言われるのかな…。
そんな風に思ってたら強く抱きしめられた。
「泣け。ついでに思ってること全部吐け。てめぇ一人支えられないほど俺は狭量じゃねぇ。」
「ふっ…うわぁぁぁ!」
小十郎さんの言葉に枷が外れた。
今まで我慢していた涙が溢れる。
俺様の身体を包む暖かさに感じる愛おしさと安心感。
「ちょっとずつでいい。俺を頼れ。いいな。」
「……っうん!」
この人は俺様を見捨てない。
この人にならどんなに格好悪い処も見せられる。
一人じゃないってこの腕の力強さが教えてくれた。
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