どこか遠くからしきりに響いてくる除夜の鐘の音。
今しがた新年を迎えたばかりだ。
テレビでは恒例の特別番組が放送され賑やかな笑い声が響く。
「ヤマト…」
私はテレビを見るわけでもなく、先程からずっと自身の携帯を眺めていた。
峰津院大和…
気象庁・指定地磁気調査部、通称『ジプス』の局長の名だ。
「新年の挨拶くらい…いや、確かマコトさんがヤマトは年末年始にも仕事があって忙しいって言ってましたし!ここは我慢っ…でも――」
―と、彼に電話をかけようとしてはやめるを繰り返していたのだ。
「会いたいなんて、ワガママは言いませんから…。だから、声ぐらい聞かせて欲しいです」
そんな言葉を零し、私は顔を伏せる。
その時、ピッというプッシュ音が聞こえた。
不思議に思って顔を上げると、発信中を示す画面と独特のコール音が響く。
「えっ、あ、嘘っ!間違えて押してっ!!」
《…名前?》
「っ!!」
ふと聞こえた声に私は恐る恐る携帯を耳にあてる。
「あの…ヤマト……?」
《あぁ、私だ。どうした、こんな時間に》
「えっと…特に用があったわけではないんです。ただ…そう、新年の挨拶!新年の挨拶をしようと思いましてっ!」
「そういえば、もう日付が変わっていたか」
「はいっ!明けましておめでとうございます、ヤマト」
《あぁ、おめでとう》
決まり文句のような挨拶を交わすと二人の間には沈黙が続く。
「…すみません、こんなことで。ヤマト、いそがしいですよね」
《構わん。それに、ただ挨拶のためだけで電話してきたのではないのだろう?》
「気づいていたんですか?」
《私を誰だと思っている》
「ふふ、流石ヤマトです」
ヤマトらしい言い様に私は小さく笑い声を零すと、本心を打ち明ける勇気を出すため少しだけ息を吐き出した。
「…声が、聞きたかったんです。ヤマトの声が……」
《…声だけか?》
「えっ?」
聞き返そうとしたその時、インターフォンの音が響いた。
「こんな時間に…?あの、誰か来たみたいなので少し待っててください!」
ヤマトにそうひとこと断ってから携帯を置くと、玄関へと向かい、扉を開ける。
「こんな時間に誰で…」
「お前は声を聞くだけで十分だったか、名前」
携帯を持っていないはずなのに、携帯から聞こえた声と同じ声が聞こえる。
私はゆっくりと視線を上げるとそこには間違いなくヤマト本人がいた。
「ヤマト、どうして…?」
「本心をなかなか言わぬお前のために来てみたが…その必要はなかったようだな」
「っ…ヤマト!」
少しだけ意地悪そうに笑った彼に私は思いきり抱きついた。
年始め、キミに会いたい
(大切な人に会いたいって気持ちは)
(きっといつだって同じだ)