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「サーーーーッチ!!!」
「!?!?」
ごりゅっ、という何とも不気味な音を立てながら食堂でマルコの向かいに座ってエースと三人で談笑していたサッチが横に吹っ飛ぶ。アレは首の骨逝ったんではないだろうか。
近くにあった椅子や机を薙ぎ倒して吹っ飛んだサッチに、サッチを吹き飛ばした何か、もとい、サッチの恋人の名無しが瞬時に距離を詰め更に蹴りを入れる。
「いってぇぇぇぇえ!!ちょ、名無し!?何すんだよ!?」
「チッ…避けやがったか。」
「ええええっ!ほんと、ちょ、ま」
「問答無用だリーゼントぉぉぉぉお!!」
腐っても隊長。ニ撃目を避けたサッチに忌々しそうに舌打ちをすると名無しは更に攻撃を繰り出す。
食堂崩壊を恐れて甲板に走ったサッチを追って名無しも外に飛び出したのを確認して今まで壁際に避難ひていたクルー達が安堵の息を洩らす。
残ったもの達で机などを片付けていると物音を聞きつけたイゾウが面白そうに口端を上げながらマルコとエースに近づく。
「なんだ、またやってんのか?」
「…みたいだねい。はぁ」
「くくっ…毎回後片付けさせられるってのも大変だねぇ。」
「って、え、アレ大丈夫なのか!?名無しめちゃ怒ってたじゃん!」
サッチと名無しの戦闘と見間違う程の喧嘩は、実は殆ど一定の周期で来る行事みたいなものなのでクルー達は怖がりこそすれ驚きはしないが、始めて目にするエースは慌てて止めに走ろうとしてマルコに止められている。
「まあ待てエース。確かに名無しは怒っちゃいるが今回はまだ大丈夫だよい。」
「何でそんな事わかるんだよ?」
不思議そうに首を傾げるエースにイゾウが口に銜えていた煙管で未だに痛々しい音の止まない外を指してゆったりとした笑みを浮かべる。
「名無しの獲物は何だ?エース。本当にサッチを殺す気で怒ってんなら蹴りじゃねーよ。」
「ぁ…そっか。ならだいじょ『ガウンッ ガウンッ』…サッチ死んだんじゃね?」
「「………」」
甲板に逃げてからも名無しの攻撃の手が緩む事はなく、むしろ広い場所に出た事で更に激しく蹴りや拳が飛んでくる。名無しは今はイゾウの部下だが、エースが入る前は空いている2番隊の隊長に推される程の強さだ。攻撃を避けるのも楽ではない。
「っと…名無し!おい、何でそんなに怒ってんだよ!?」
「てめぇの胸に手ェ当てて考えろこの粗チン野郎が!!」
「粗チ…!?酷くね!?」
俺、お前の彼氏だよね!?と喚くサッチに名無しの眉間に更に深い皺が寄り、腰のホルスターから愛銃を取り出し何の躊躇いもなくトリガーを引く。
「ぎゃーーーー!?この子本当に撃った!!」
情けなく悲鳴を上げて横に飛んで避けたサッチの上に跨り顔面スレスレに銃を構え動きを封じると、素直にホールドアップしたサッチに嫌そうに顔を顰める。こういうところで、サッチの方が精神的に大人なのだと言われているようで嫌だ。
「なぁ、何で怒ってんの?」
「…昨日の夜、どこに居た?何してた?」
「昨日の晩?…マルコとビスタと三人でビスタの部屋で飲んでたけど、っ」
記憶を辿りながら答えると、名無しの持つ銃がグリ、と眉間に押し付けられる。
「へぇ?ビスタの部屋で飲んでたねぇ。『今夜空いてるなら部屋に来いよ』って言ったのは誰だったかしら?」
にっこりと笑いながら言われた言葉にサッチの顔から血の気が引く。確かに昨日の夜、「お誘い」をかけたのはサッチだ。思い出して謝罪をしようと口を開くと、言葉を発する前に銃のグリップで顔を強かに殴られる。
「へぶっ…!名無し、ちょあぐっ!わ、わるか…ぶふっ!」
「殴られながら笑ってんじゃねー変態が。」
殴り続ける腕を掴み名無しの顔を見上げると、綺麗なダークシアンの瞳がギラついている。普段は冷静に凪いでいるこの色が、怒りや抑えられない本能を映してギラつくのが、サッチは好きだ。
「なに?浮気してるかもって思った?へぶっ」
「調子乗んなカス。」
「ひろっ!ひんふぁつ!(ひどっ!辛辣!)」
掴まれて無い方の手でサッチの顔をガッと掴み、頬に爪を立てる。名無しが乗っている事など感じさせない勢いで腹筋だけで起き上がるサッチに立てた爪を更にギリギリと食い込ませて、まるで猫に引っ掻かれたように引きつった跡がサッチの顔につく。
「いだだだだ…離しなさいもー…」
顔から手を引き剥がし両手を片手でまとめ、空いた手で頭をぽんぽんとなだめる様に撫でるが名無しの瞳は緩む事なくサッチを睨んでいる。
どうしたもんかと思考を飛ばしていると、唇に衝撃。見開いた目に映るのは近すぎてぼやけたダークシアン。
長かったのか短かったのか、顔を離した名無しがしたり顔でディープピンクのグロスが塗られた唇をペロリと舐める姿に、背中にゾクリと甘い痺れが走る。
ふわふわと意識が名無しに染まり、誘う様に弧を描くそれにもう一度重ねようと目を伏せて顔を寄せる。
「名無し……あべしっ!」
「調子乗んなつってんだろーが早漏男!!」
緩んだ手を見逃す名無しではなく、再びサッチの横っ面に強烈に銃身を叩きつける。
「お、おい…名無し…ひぎゃっ!」
顔を抑えてふらふらと手を伸ばしてきたサッチの股間をトドメとばかりにヒールの踵で踏み潰し、勢いを付けて立ち上がる。
悶絶して股間を抑え、転がるサッチは放置だ。
「っ…〜〜!お、おま…!」
「サッチ」
その場にサッチを置き去りにさっさと船内に戻ろうとしていた名無しが振り返り唇を挑戦的に吊り上げ頬笑む。
「サッチ、部屋で待ってるわ。」
「〜〜〜〜、おう」
夢心地のディープピンク
(…サッチちんこ踏まれたのに笑ってる…)
(あいつら結局いちゃついてんじゃねーか)
(顔変色して歪んでるよい…)
(((…怖ぇ女)))
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