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例えば。とっても驚いた表情とか、悔しがる姿とか、痛みに歪んだ顔とか。そんな姿ばかり見たくなるのは異常なんだろうか。
悲しませる、なんてことはしたくないとは思う。なのに、痛め付けたいとも思う。いや、もしかしたら誇張表現かもしれない。
ただ、ちょっとだけ痛いって顔をしてほしいと思ってしまうんだ。






□■□■□■□





その日は互いに仕事が休みで、ずっと一緒に過ごせた。ただすることもなく、ゲームに没頭する元親の背中に、自分の背中を預けながら雑誌を読んでいた。
不規則な揺れに心地良さを感じながら雑誌を読み進めていると、不意に元親の躍起になった声が聞こえた。背中を離し、体を捻って振り向くと、コントローラーを投げ出す姿を捉えた。


私は雑誌を閉じて、如何かしたかと問えば、元親は首を鳴らしながら「やってられっか」と吐き捨てた。大方、ゲームが煮詰まって止めたくなったんだろう。まあ、それを指摘するとやんややんや騒ぐので口を噤む。
ゲームを止めた元親は、私に向き直り、いきなり抱きしめた。突然過ぎて私が硬直すれば、耳元に楽しげに笑う元親の声を聞く。



「今度はなぁに?」
「どうすっかなあ」
「………えいっ」
「ぐふ…!!?」



いつもはこのままだらだらするけど、今日は何だかそんな気がしなくて。取り敢えず背後に居る元親に思い切り肘を当ててみた。すると思いの外急所に入ったらしく、元親が噴き出し後にえずいた。

それに急に心拍数が上がった。


若干、涙目で私を睨む元親が、ひどく可愛く見えると同時にもっとやったらどうなるのか、といった思考が生まれた。
私はゆっくり元親の肩を掴み、押し倒した。元親がびっくりしたのか、腕で身体を支え完全に仰向けにはならなかった。



「どう…したんだよ、お前」
「どうって、なぁ……」



衝動を抑え切れず、私は苦笑いを零した。元親の目元から涙を拭い、笑いかけるも彼は強張った表情のままだ。
そんなことお構いなし、私は笑顔を崩さないで元親の顔を両手で掴む。表情だけじゃなく、彼の全身に緊張が走ったのがわかった。悪戯心かすらわからないけど、兎に角さっきみたいなカオをして欲しくて、膝を腹に入れてみた。案の定、元親が痛がる。いや、多分、痛がるのレベルじゃないとは思うけれど…。


とうとう後ろに倒れ込んだ元親は、痛みに顔を歪めていた。





「……ねえ、元親」
「んあぁ!?」



静かに名前を呼び、彼が乱暴に返事をする。そこには気に留めず、顔と顔の距離を縮める。目の前の顔が困惑の色を含むものになった。





「もっと痛がるカオ、見たいなー、なんて」
「……(笑えねぇ…!!?)」



きっと私の顔はかなりうっとりしているかもしれない。そして私の心情を大体把握出来てしまった元親、息を飲み押し黙る。
戸惑いと困惑の中で、僅かに見せた“恐怖”の瞳に、思わず口の端が上がってしまう。





「あのね、さっき元親が痛がって苦しそうな顔に欲情したみたい」



そう言い放つ私を見る蒼の中には、意地悪く笑う私が映った。




2012.04.26



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