「仁王くん」

聞こえた自分の名前に伏せていた顔をあげれば、委員長基みょうじなまえが立っていた。首を傾げれば少し眉間に皺が寄った。

「昼休み、屋上に来てください」
「お、なんじゃ。告白か?」

冗談混じりに聞くと彼女は慌てるでもなく、ただ張り付けられた笑顔を見せた。

「面白い冗談ですね」
「……」
「じゃ、これで」

席に戻るみょうじを目で追う。艶のある長い黒髪、眼鏡をかけていてもわかる整った顔立ち。美人に分類されるな、と分析していれば視界に赤いものが入ってきた。

「仁王、お前なにしたんだよい」
「盗み聞きか」
「聞こえただけだって。で?」
「なんもしとらん」
「ふーん?」

丸井はぷうー、とガムを膨らませた。それが弾けたところで鐘が鳴り、奴も席に戻って行った。さて昼休みまで一眠りするか。机に伏せればすぐに意識が飛んだ。






「ごめんなさい。呼び出しておいて遅れてしまいました」
「別に気にしとらん」

慌てて屋上にやってきたみょうじは少し息が上がっていた。寝転がっていた体を起こし、彼女を見据える。

「用は」
「その髪、黒にしてください」
「嫌じゃ」
「……授業に出てください」
「断る」

何かと思えばそんなことか。教師にでも頼まれたんだろう、ご苦労様。みょうじは溜め息を吐いて俺を睨む。

「ルールを守らない人は嫌いです」
「それは残念じゃ。俺はお前さんのこと好いとうのに」
「っからかうのはやめてください!」

声を荒げ、校舎に入って行く。それを見て自然と笑いが込み上げた。

「くく、面白いやつじゃ」

そういえば柳生と話してるのをよく見掛ける。……今度手伝わせるか。そんなことを考えながら再び寝転んだ。




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