「あ、謙也今日の夜電話するし起きといてや」 「おん。わかった」 放課後、部活に向かおうとしていた謙也に言った。忍足謙也。テニス部に入っていて浪速のスピードスターって呼ばれてる、あたしの家の隣人。昔はよく部屋の窓から相手の部屋に行き来していた。中学に入ってから調子のって脱色し始めたアホ。白石によれば部活では後輩に馬鹿にされてるらしい。アホだ。 日付が変わる五分前、謙也に電話をかける。暫くコール音がなったあと、プツッとそれが止み『もしもし…』と眠そうな声が聞こえてきた。 「窓開けて」 『んおー』 カラカラと目の前の窓がゆったりとした動きで開く(どこがスピードスターなんだ)。窓が開けられたので電話を切った。眠そうに目をしぱしぱさせている謙也。こいつ放っといたら寝るな。 「はい」 「っだ!…何すんねんアホ!!」 手に持っていた箱を顔に投げ付ければ覚醒した彼は鼻を押さえて騒ぎだした。うるさい、近所迷惑って言葉を知らないのか、このヒヨコは。 「ハッピーバースデートゥーユー」 「!…開けてええ?」 「どうぞどうぞ」 リボンをといていく謙也の顔は緩んでいた。包装紙を取り払い、箱を開ける。 「っだ!」 謙也はさっきと同じ悲鳴をあげた。ちなみに何が起こったかというと、謙也が開けたあの箱はビックリ箱なわけでして。憎たらしい顔したピエロのトムくんが彼の顔にクリティカルヒットしたのです、まる。 「…なまえ?」 「あは、グンナイッ!」 ピシャリと窓を閉めた。さて、いつ気づくかな? 「…はや」 机の上の携帯が新着メールを知らせていた。このタイミングはきっと謙也。予想以上に早い。メールを開封する。 『ベルト、ありがとう』 どういたしまして、と返して布団の中にもぐった。 --- 100317 謙也おめでとう! 補足:びっくり箱にはちゃんとベルトが入っていたのです。 |