幸村先輩、とオレンジに染まるグラウンドを見下ろす人物の名を呼ぶ。私の声に反応した彼はこちらを振り向き首を傾げた。先輩の横まで足を進め、先ほど彼がしていたようにグラウンド、というよりテニスコートを見下ろす。

「見に行かないんですか?」
「ね」
「切原が寂しがってましたよ」
「…うん」

先輩とは委員会で知り合った。切原からいろいろ話は聞いていたが、花に水をあげる姿や土を扱う手つきからは想像つかないことばかりで。しかし一度練習を見に行ったそこに居たのは声を張り上げて部員を指導し、力強くラケットを振る先輩だった。

「赤也が部長としてしっかりやってくれていることは嬉しいんだ、本当に」

ぽつり、と静かに零した幸村先輩。「でも、なんて言えばいいんだろう」眉間に皺を寄せて綺麗な顔を歪めながら、フェンスを握る手に力が込められた。白くなってきているそれに自分の手を重ねる。

「寂しいんですね」

驚いたようにこちらを見つめる先輩と目が合う。幸村先輩はさびしい、と小さな声で私の言葉を繰り返した。

「切原が立派に部長を務めていることが嬉しい反面、先輩方が引退したあとも問題なく部活が回っているのが寂しいんじゃないですか?」

先輩は目を見開いたまま暫く固まっていたが、大きく息を吐いたあと微笑んだ。憑き物が取れたような爽やかな顔にほっと胸を撫で下ろす。

「そっか、寂しかったのか。ふふ」
「なんだか楽しそうですね」
「赤也のことを子どもみたいに思ってても俺もまだまだガキなんだなって」
「まあ、中学生ですし」

そうだね、と無邪気に笑う先輩。今まで見てきた大人びた雰囲気とは違う、子どもっぽい笑顔に少し顔が熱くなるのを感じる。幸村先輩、これは一体なんなんでしょうか?頬を撫でる風からは微かに冬の匂いがした。



---

純愛協奏曲様に提出




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -