「別れてほしいんや」

目の前にいるなまえにそう告げれば目に涙を溜め、俺を見上げてきた。ああ、なんて可愛いんだろう。なまえのことが嫌いになったわけじゃない。むしろ大好きだ。ただ彼女が俺のことをどれだけ好きなのか知りたくなっただけ。興味。悪戯心。なまえは顔を伏せた。

「……わかっ、た」

どうして、なんで、という返しを期待していた。しかしなまえの口から零れたのはそんな言葉ではなく、了承。頭が真っ白になった。なまえは俺のことが好きではなかったのだろうか。再び顔を上げた彼女は唇を強く噛み締め、瞳からはとめどなく涙を流していた。そこで、気づいた。なまえは俺のことが好きじゃないのではなく、

「蔵が別れたいんやったら、私は……」

なまえは涙目でふわりと笑うと「ばいばい」と言って走り去った。ああ、なんて愚かな、俺。






「ちょ、待ちや謙也ー!!」
「追いつけるもんなら追いついてみろっちゅー話しや!」
「アホ!無理に決まってるやんか!」
「そらそうやろなあ。なんたって俺は浪速のスピードスターやからな!」
「なんかうざいんやけど」
「なんで!?」

俺の前を駆けて行った二人を目で追う。謙也と……なまえ。あの時あんな嘘をつかなければ彼女と笑っているのは俺だったんだろうか、なんて。




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