四天宝寺中に入学してから半年経ったころ、屋上で綺麗な金髪を風に靡かせている女子に会った。クラスメートであり同じテニス部に所属している白石から名前を聞いたことがある。金髪で喧嘩が強い女子、確か名前は 「みょうじなまえ…」 しまった、と思った時には遅く、俺の声に反応した彼女はこちらに顔を向けた。表情は不機嫌そのものだった。冷や汗が背中を伝うのがわかった。つかつかとこちらに向かってくると、俺の前で止まり、顔を覗き込んできた。 「…なんであたしの名前知ってんねん」 「え、あ」 「どもんなや」 ぎろり。睨まれる。本当に視線だけで人を殺せるんじゃないだろうか。と、思っていたらいきなり彼女は破顔した。驚いて目を見開いていると、苦笑しながら口を開いた。 「堪忍な、別に襲ったりせんからそない怯えんといて」 「お、ん」 「あんた名前は?」 「忍足謙也やけど…?」 俺は今だにこの現状についていけないでいる。さっきまで凄んでいた彼女はどこだ。目の前で柔らかく微笑んでいるこの子は一体誰なんだろうか。意識を飛ばしたままでいるとペチペチと顔を叩かれた。「忍足、大丈夫か?」という声に我に返る。 「は、え?えええええええええ!?」 「うわ、うるさ」 「ちょ、みょうじなまえ?ほんまに?え、ええ?」 いきなり叫びだした俺に今度はみょうじが目を見開いた。そして納得したように何度か頷き眉を垂らして笑った。 「自分も噂聞いたクチか。せやったら驚くんも無理ないなあ。あたし目つき悪いし、こんな頭やからよお誤解されんねんな…」 「ごかい…」 「家が道場で稽古受けとったら大人なんか余裕で投げれるくらい強なってしまってん。んで、外見これやから変に絡まれるし…掴みかかられたら反射的に体が動きよる。あたしは楽しく過ごしたいだけやのに」 なんで自分にこんな話してんのやろ、そう言って彼女はその場に腰を下ろし、空を見上げた。俺はその横に座った。自分でも理解できなかった、けど寂しそうな顔を見たらいてもたってもいられなかったんだ。しばらく二人で雲一つない青い空を眺めていた。 翌日の朝、教室にいた白石に挨拶をしたら、ヤツはそれに応えながらこっちを見た。すると白石は俺を見るなり「おま、どないしたんや!?」と叫びながら俺の肩を揺さ振った。ゆっくりと手を肩から退ける。 「ちょっとな。俺行かなあかんとこあるし、また後で説明するわ」 「あ!謙也!!」 机に鞄を置き白石の声を無視して俺はダッシュで教室を出た。流石のアイツでも俺のスピードには追いつけない。白石もそれがわかっているから、追いかけようとはしなかった。階段を駆け上がる。屋上にいる保証はない、けど変な確信があったんだ。重い鉄の扉を開ければ、やっぱり彼女はそこにいた。 「友達!!」 「!?」 「俺が友達になったる!」 「え、おした、り…?」 「よそよそしいのは無しや、これからは謙也って呼ぶんやで!わかったな、なまえ?」 「あ、おん、って、は?ちゅーかそれは、」 それ、となまえが指差したのは俺の頭。黒かった俺の髪は今では彼女と同じ様に金色に輝いている。 「真似してみたんや。…似合わんか?」 「……や、めっちゃ似合っとるわ」 なまえは照れ臭そうに笑うと「これからよろしゅう」と言ってくれた。不覚にもその笑顔にドキドキしてしまった俺はもしかすると、彼女に惚れたのかもしれない。教室で俺の帰りを待ってるだろう白石に昨日のことを話すついでに相談してみようと思う。 |