謙也に連れられたのは『忍足医院』と掲げられた建物だった。まさかここはもしかしなくても…!

「オトン、オトーン!」
「アホ兄貴うっさい。オトンなら、」

謙也の呼びかけに答えたのは黒髪の謙也2号。たぶんきっと弟の翔太くん。あ、兄貴って言ってたし間違いなく兄弟か。というか似過ぎ。黒髪の謙也みたい。かわいいいいい!なんて考えてたら翔太くんは大声を上げた。

「ちょ、オトン!オカン!兄貴が女の子連れて帰ってきよった!」
「あ!翔太!この子は!」

謙也が止める間も無く奥から綺麗な女の人とダンディな男の人がすごい速さでやってきた。なんかすんごい目がキラキラしてる。横の謙也はため息を吐きながら頭を抱えていた。

「あらあらあらあらまあまあまあまあ!めっちゃ可愛い子やないの!」
「謙也、お前も隅に置けへんなあ。どこでこんな子引っ掛けてきたんや?ん?」
「あの兄貴が…なあ」

にやにやにや。まさにそんな笑顔。ああやっぱり謙也はどこでもこんな扱いなんだと思ったらついつい頬が緩んでしまう。

「とにかく何でもええから早くこの子診たってや!」

謙也の言葉に謙也パパは「ん?」と首を傾げながら私の顔を覗き込む。ついぼけっと口を開けて見上げてしまった。恥ずかしい。

「校門の前で倒れててん。財前が言うには門にある看板で頭打ったらしいわ」
「ああ、謙也みたいにねえ」
「謙也みたいにか」
「兄貴みたいになあ」
「な、何で俺がぶつけたこと知ってんねん!?」

ちなみに私も知ってるよ!という言葉は飲み込む。初めはテンパっちゃったけど、墓穴掘るとまずいよね。頭おかしい人だと思われちゃう。謙也ママパパ、翔太くんは「財前くんから聞いた」と声を揃えた。

「ざいぜん……明日覚えとれええええ!」

きっとそんなこと言ってても財前には軽くあしらわれるんだろうなあ。うん、それでこそ謙也だ。




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