トイレを探して歩いていれば別荘の端の方まで来てしまったのか、人の気配がない場所に着いた。今更来た道もわからないし、その辺を散策することにしてみる。

「…?」

どこからか声が聞こえた。男と…女?両方とも聞き覚えのある声。むしろ男の方は毎日聞いている。声のする部屋の前で立ち止まった。少しだけドアを開ける。………桃ちゃん先輩となまえさん。いい雰囲気でないことは一目でわかった。それはやっぱり当たっていて、桃ちゃん先輩の腕が振り上げられる。これは…まずいでしょ。体は勝手に動いていて、気づけば部屋の中に入っていた。誰かが来るなんて思ってなかったんだろう、二人は俺を見て固まっている。二人を交互に見遣ったあとなまえさんに向き合う。

「……部長が呼んでたよ。食堂にいるから行ってきたら」

そう言えば彼女は小さく頷き、部屋を出て行った。もちろん誰も呼んでないし、食堂にもたぶん誰もいない。小声で言われたお礼には片手を挙げて応えておく。パタン、と扉が閉まる音を聞いた桃ちゃん先輩はゆっくりと腕を降ろした。

「…越前、」
「桃ちゃん先輩、トイレの場所教えてほしいんスけど」

先輩の呼びかけには応えず、自分の用件を口早に伝えた。少しの間のあと先輩は強張っていた顔を緩め、「お前トイレの場所もわかんねーのかよ!」といつものように笑った。さっきまでのことはまるで何もなかったかのように。





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