「じ、ろー……?」
「………」

佇むのは芥川慈郎。なぜ彼がここに、いや、それより芥川は傍観者だと思っていたのに。どういうこと?長い沈黙のあと、彼は口を開いた。

「………なまえをここに閉じ込めたって話を聞いて……、俺はなまえにつくことも愛奈につくこともできない。ただ…、っただ仲間が傷つくのはいやなんだ!」

芥川は俯いて拳をつくった。力が強すぎるのか手は震え、白くなっている。絞りだすような小さな声で再び言葉が紡がれた。

「でも俺はなまえを殴る皆を止められなかった。怖かった、変わってしまった皆が、俺が被害を受けることが。弱い俺は陰で動くことしか出来ない」

ぽたぽたとコンクリートに染みができる。芥川もまた前の幸せを願う一人なんだ。

もしかしたら傍観者であるのはどちらかにつくよりも辛いのかもしれない。信じたい、だが何を信じればいいのかわからない。どっちつかずは卑怯だと思っていたが彼を見ているとそんなこともないような気がした。

芥川の印象が少し変わった。彼は人一倍優しい。故に傷付きやすく、損をする。けど、嫌いなタイプじゃない。





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