肌寒さで目が覚めた。うつぶせの状態で隣を見る。大きめのベッドは人二人が余裕で眠れる広さがある。実際、私の横ではイルミが寝てた、筈だ。ぼんやりと隣にあいたシーツの白い空間を眺めて、ハッとした。―――イルミがいない。体を起して部屋中を探すが、彼の姿はどこにも無かった。何で、イルミ、どこに行ったの…。若干パニックになってベッドの上でボロボロと涙を流した。窓の外はまだ暗くて、余計に私を不安にさせる。




「どうしたの」



不意に声がして、涙をぬぐっていた手を離して声の方へ振り向く。いつもと変わらぬ無表情で、大きな目で、私の様子をうかがっているイルミがいた。



「イ、ルミ…」



駆けよってそのままイルミに抱きついた。余裕で受け止めてくれた彼は、泣いてた私を気遣ってか頭を撫でてくれた。そしてそのまま私を抱えると、ベッドに座って再び頭を撫でる。それのおかげで、ほっとした私は、イルミに体を預けたまま顔を上げた。




「どこ行ってたの、？」
「仕事」
「…こんな時間に？」
「うん」
「……イルミいないから、私、…私、」
「俺がいなくてさみしかったんだ」
「うん」
「でもさ、」




―――本当に俺が居なくなった時、どうするの？
至って普通に、日常会話でもする様なテンションでイルミはそう言った。私は、目を見開いて、イルミが言った事を理解しようとして、でも理解しようとするのを拒んだ。イルミが居なくなるなんて、考えられない。考えたくない。…嫌だ、と駄々をこねる子供のように必死に首を横に振った。何でそんな事言うの？何でそんなこと、言うの…！？再び涙がこみ上げて来て、手で顔を覆った。



「泣かないで」



イルミの声が聞こえて、それから顔を覆っていた手がはがされた。視界いっぱいに、涙でゆがんだイルミが居る。イルミの手が優しく私の目じりをなぞって、涙をふいた。それから、目じり、おでこ、鼻にキスが降ってきて、唇の前で、止まった。…互いの息が掛かって、喋ったらくっついてしまいそうな、そんな距離。でも、





「俺が居なくなっても、泣かないで。死ぬとか、考えないでね」




私とイルミの唇が、触れる事は無かった。…一気に眠気が襲って、私の思考はそこでストップされた。次に起きた時、隣にイルミはいなくて、また一人の日常が始まってしまった。







夢は所詮、夢でしかなく


彼がいた日常は、幻想のように散って行く。




―――――
志乃さんへ、リクエスト有難うございました！こんなんでよろしいでしょうか…！久しぶりのイルミだったんですが、大丈夫でしょうか…

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