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『もしもし。』
そう言って、待ちに待ってたはずだけれど、少しだけ重い気持ちで電話へと出る。するとクロロはいつものように、ふっと笑ってから、
「いつ聞いてもお前の声は可愛いな。」
なんてかっこよく言うものだから、少しだけにやけるけれど、はいはい、とだけ返事をする。久しぶりだね、とクロロの声をお構いなしに続けると彼もいつものように、そうだな、と応える。仕事が忙しくてな、と言う彼に分かってる、という気持ちと、それでも一日のうちに数分でも私のことを想って、という気持ちが交差して無言でいると、彼はそのまま、
「会えないときもいつもお前のことを考えている。」
と甘い台詞をはく。嬉しい言葉なのに、言って欲しい言葉のはずなのに、嘘つき、そんなに考えてくれてるなら私に電話かメールくらいできるでしょ、という気持ちが渦巻いている。純粋に彼が好きで信じていたいのに、嫌な女になんかなりたくないのに、私の心の嫌な部分がそれを許してはくれなくて。
『クロロ、いつも留守電だし、会うこともできないよ。』
「仕事だ。分かってくれるだろう?」
そうだよ、分かってる。クロロが居ないと蜘蛛はここまで大きくなれなかったもんね。私も1年前までは蜘蛛の一員だった。もっぱら戦闘員で、いつもウボォーやノブナガと一緒に最前線で戦ってきた。けれど、私たちが付き合うようになってから、3ヶ月くらいしたときにクロロが、お前が居なくなるのが堪えられない、死の危険に晒させたくないんだ、と言ってくれて私は蜘蛛を抜けた。私のことを大切に、特別に想ってくれる気持ちが嬉しすぎて、彼のその言葉に二つ返事で、うん、と答えて、今はのんびりとした田舎街で暮らしている。でも、それが今は辛くて仕方がない。貴方の側にいつも一緒に居るのは仲間である蜘蛛の人たちで、彼の考えを、彼の望むことを行動して彼の欲求を満たしているのもそう。仲間だから、大切だが、あいつらはそれ以上でも以下でもない、といつか貴方が言った台詞は本当かと再び問いたくなる。長い時間、貴方の側にいられて貴方の考えを共有して、貴方の喜ぶことをしてあげれるなら、私も仲間でいられたほうが幸せなのかもしれない、という後悔の念が浮かぶ。
「好きだよ、愛してる。本当だ、信じろ。お前が……」
だめ、その続きを言わないで。言ってしまったら、貴方のことを嘘つきだと、信じられないと思ってしまうから。口だけだって、考えてしまうから。だってクロロは、欲しいものがたくさんあって、だから盗賊をしている、それは紛れも無い事実で。だから、聞きたくないの、それを聞いたら信頼できなくて私たちの関係が終わってしまう。信用できない貴方に別れを告げなければいけなくなる。だから、貴方が好きだから分かりたくないし聞きたくない。貴方の口から、
君さえいれば、なんて
「じゃあ、またな。」
『うん、さようなら、クロロ。』
さようなら、が嘘と思えた日々は確かに過去にはあったのに。
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