ある昼下がり。
仕事が朝までかかってしまい、早く寝ようと部屋に入ると何故かそこにはなまえが居た。
しかも、オレのベッドに寝っ転がり雑誌を開いて菓子まで食べている。てかそれキルアのじゃない?怒られても知らないよ。


「あ、イルミ。おかえりー」


オレの存在に気付いたなまえは、菓子を頬張りながらちらりとこちらに視線を向けて呟いた。


「うん、ただいま」


なんでここにいるのか、とか、ベッドの上で菓子を食うな、とか、スカートで足を広げるな、とか。
言いたい事は山ほどあったけど、何だかめんどくさくなったのでとりあえず挨拶だけ返した。
きっとどれも適当な返事しかしないだろうしね。

ちなみに、なまえとは所詮幼なじみという間柄だ。別に恋人とか許嫁とかそんな色めき立った存在じゃない。

ただ、なまえと一緒に居ると落ち着く。何でかはわからないけど。そういう意味では特別な存在なのかもしれない。

とりあえずオレもなまえの近くに腰掛け適当な雑誌を開く。すると、突然ごろごろしていたなまえが視線を雑誌に向けたまま口を開いた。


「ねぇ、イルミ」


「なに?」


オレも雑誌から目を離さずなまえに応える。あ、この記事結構面白い。


「イルミってさぁ」


「うん」


「本当に無表情だよね」


…え、何今更。
そういう意味を込めてなまえの方を見たけど、なまえは相変わらず雑誌に夢中の様で。そのままオレの方を向かずに更に話を続けていく。


「私、イルミが泣いてるとこ見たことないよ」


「まぁ、泣かないからね」


「うん、それで考えたんだけど、さ」


ここでようやくオレの方を向いたなまえは、無表情でじっとオレの顔を見つめた。

無表情なのはなまえも良い勝負だと思うんだけど。

でも、無表情ながらにいつもより真剣味を増した瞳から、何故だか目が反らせくて。

そしてオレを見つめたまま、なまえはまたゆっくりと口を開いた。


「イルミはきっと、私が死んでも泣かないだろうね」


「…は」


死ぬ?なまえが?


「死んでないじゃん」


「もしもの話だよ。頭堅いな。…ねぇ、もしも。もしも私が死んだらイルミは泣いてくれる?悲しんでくれる?」


「わからないよ。想像した事無いし」


「じゃあ今想像して」


なんでなまえはこんなに必死なんだろう。いつもボケッとしてるくせに。

しかも、なんで――


「(なんで、泣きそうな顔してるんだろう)」


なんだかわからないけど、今すぐなまえを抱き締めたくなった。抱き締めなきゃいけない様な気がした。

だけどそんなの、あくまでオレの勝手な妄想で。なまえに拒否される事を考えると、どうしても実行する事が出来なかった。


「…ごめん、やっぱいいや。忘れて」


なまえの声でハッと我に帰る。
どうやらオレは結構真剣に考え込んでいたらしい。

変な事聞いてごめん、と軽く謝った後、なまえはもう帰るとベッドから立ち上がった。


「もう帰るの?」


「うん。イルミ、今回の仕事結構疲れたんでしょ。早く寝なよね」


どうしてわかったんだろう、と少し驚きながら頷くと、なまえは満足そうにちょっと笑った。



扉に手を掛けた時、なまえは、ねぇ、と小さくオレに声を掛けた。その声が、何だか震えている様に聞こえて。聞きたくない、なんて思ってしまった。

だけど、オレのそんな気持ちなんて知らないなまえはそのまま話を続けようと口を開く。

あぁ、嫌だ。聞きたくない。
(何でかわからないけど、聞いたらもう全部終わってしまう気がして)


「ねぇ、イルミ。私が死んだらさ、泣かなくてもいいから。ちょっとは悲しんでよね。」


それだけ言うと、なまえはじゃあね、と静かに去って行った。

なまえが帰った後、誰も居なくなった部屋で一人扉を見つめる。ぼんやりと、ただなまえの後ろ姿を思い返しながら。

すると、突然ぼろぼろと。
オレの目から次から次へと涙が溢れ出てきた。自分でも訳がわからない。

拭っても拭っても溢れて来るので、オレは次第に諦めて涙を拭うのを止めた。
放っておけば止まるだろうと考えたからだ。だけど、涙は止まるどころか更に溢れ出てきて。


「何これ…」


泣くのなんて久しぶり過ぎて止め方もわからない。そもそも原因もわからないのだから止めようがない。

…いや、原因と言えば一つだけ思い当たりがある。


「なまえが、変な事言ったからだ」


死ぬとか、そんな突拍子も無いこと突然言うから。だからちょっと想像しちゃってこんな事になったんだ。だからこんなに胸が苦しいんだ。


「なまえ、」


何でだろうね。
さっき話したばかりなのに。


「なまえ」


どうして、どうして君がもうこの世に居ない気がするんだろう。


「今、オレは泣いてるよ。悲しんでるよ。見たこと無いんなら見においでよ。」


ねぇ、だからなまえももう一度姿を見せて。

今度こそ、ギュッと力一杯抱き締めてあげるからさ。














なまえが今朝死んだと聞いたのは、そのすぐ後のことだった。




泣いて 泣いて
ねぇ、これで満足?



――――――
前サイトのリクエスト
「イルミ切甘」
シノさんに捧ぐ

全然甘くなくてごめんなさい
リクエストありがとうございました!















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