朝、イルミから電話があった。
イルミから連絡なんて珍しいから(それでなくてもいつも突然だから)何事かと思い、電話へと飛びついたら、イルミは、いつも通り、やあ、おはよう、と挨拶を交わしてから(杞憂かと思ったけど)キルア、そっちにいない?と尋ねてきて。
え、居ないけど。
と言うあたしの台詞に、彼はじゃあ、連絡は来てないか、とかこの前会ったときに何か話していなかったか、とかいろいろ聞いてきて。
キルアがどうかしたの?と問えば、家出したんだよね、といつもどおりの声色で返事がきて。
えーっ、と驚いたのはあたしのほう。
うるさいよ、という彼にいつもなら反論するけど、そんな暇もなく、どうかしたの、どこにいるの、と今度はあたしが問いただす番。
知らないから聞いたんだろ、と返ってきた言葉はもっともなことで。
じゃあ、万一連絡来たら俺に教えてね、という彼に、うん、と返事をする。
あ、あと今日仕事1件入ってるけど終わったらそっち行くから、と続ける彼。
分かった、と返事をしたあと、大丈夫?と尋ねる。
あ、キルアのこと?大丈夫だろ、下手な訓練してないし、じゃあ、また。
そう言って切れた電話のツーツーという音を聞きながら、違うよ、と思う。
大丈夫か心配したのはイルミのことだよ。
あんなにあんなに大切に育ててた(そりゃあちょっと厳しいけど)弟に何もなく家出されて。
彼は何事もなかったようにいつものように喋っていたけれど、それが余計に心配になる。




その夜、ザーザーと降る雨の中、ピンポンとチャイムが鳴る。
はいはい、と立ち上がって玄関の扉を開けると、そこには、血で、水でびしょびしょのイルミ。
や、といつも通りだ。
馬鹿、何で、と言いながらびしょびしょの彼を部屋へと通し、大きな窓の傍のソファへと座らせる。
持ってきたタオルでがしがし、とイルミをふけば、なんか濡れたい気分でさ、何でか分かんないけど、と笑いながら言うイルミ。
苦しくて、苦しくて、私は涙が止まらなかった。
思わずイルミに抱き着いて、目一杯涙を流す。
何で泣いてるの?と彼が言う。
馬鹿だな、イルミは。
苦しさ、辛さを涙と一緒に流す、なんてことしないんだから。
イルミが泣けないみたいだから、あたしが変わりにいっぱい泣くの。
そう言うと、イルミは馬鹿だね、と喋ってから私を抱きしめる力を強くする。
私の啜り泣く声と雨のザーザーしか聞こえないでいるとき、彼がふと上を向いた。
微かに光った瞳。
どうかしたの、と聞く前に、イルミは今日は月が綺麗だねと呟く。
やっぱり馬鹿だな、イルミは。
今日は雨だから月なんて見えないよ。
でも、涙ぐみそうな彼の瞳に免じて、気付かないふりをしていてあげよう。














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