ある程度お腹を満たし、アルコールも結構入った。専務や部長には仕事用の笑みを浮かべて挨拶も済ませた。それから同僚の女の子達のテーブルへと足を運ぶ。煩わしいと思いつつも話に付き合う事にした。

土方の周りにはクリスマスの前だからか、本当に日頃の感謝の念を伝える為か。女の子達が代わる代わる酌をしに行っている。上目づかいで可愛らしく笑う彼女達とは対照的に、相変わらずにこりともせず、ポーカーフェイスのままの土方。あまり喋る素振りも見せない。どこかで見た様な光景だと思ったら、直ぐにキャバクラで見た光景と一緒だった事に気づいた。


やっぱり分かってない

これじゃ一緒


だからと言って会社の同僚に対して、あからさまな態度も取れない。ここはキャバクラと違う。これからの付き合いがある事も考えないといけないのだから。

そろそろ土方がうんざりし出した頃。私も丁度のタイミングだった。


「ねえ、折角なんだからもう少し喋ろうよ」
「ごめん。煙草吸いたい」


専務が来るという事でいつも以上に念入りに化粧の施された女の子達。しっかりと口紅の付いた口元からは、次々と同じ様な言葉が飛び出してくる。確かにここ最近はじっくりと話す機会が無かった。だからもっと、という気持ちは有るのだろう。でも私には分かっている、その口元からまた同じ様な内容の言葉が出てくる事位。そして私は同じ様な事を繰り返し聞く羽目になるのだろう。年明けか、一ヶ月後か、三ヶ月後か、来年か。ならば別に今聞く必要などない。私は敢えて困ったような作り笑いをして席を立った。


席に戻ると土方が疲れた様な表情を一瞬だけ見せた。私が側に寄ったからだろう。声をかけると返って来た声も疲れた感じだった。


「ちょっと吸いに行かない?」
「奇遇だな。俺も今丁度誘おうと思ってたとこだ」


近藤さんは専務に捕まっていてしばらくは酔う暇などなさそうだった。女の子の相手をしている間、土方はその様子を伺っていたらしい。


全く抜け目のない奴


一緒に席を立ち、クロークに預けてあったバッグだけ受け取る。レストランの中では喫煙場所がないので外に出ないと吸えない。息が白くなる程の寒空の下、土方と一緒に店の外へと出た。



例年よりまだマシだとはいえ、気のおける人間ばかりがいるわけではない。やはり気疲れする。あと少しの辛抱だと誤魔化すかのようにして、冷たい空気と一緒に目一杯の煙草の煙を吸い込む。空気が乾燥しているせいか短くなるのが早い気がした。


「可愛い子はいた?」
「興味ねぇよ」
「土方ってホモだっけ?」


丁度吸い込んだ時に当たったらしい。派手に咳き込んでどんどんと自分の胸を叩いている。その様子が可笑しくて声をあげて笑うと、ぎろりと睨まれた。土方のこんな非難めいた視線なんて他の女の子達は多分知らない。下手をしたら羨ましがられるかもしれない。込み上げてくる笑いを抑えもしないでごめんと謝ると、何も言わずに短くなった煙草を足で踏みつけ、新たに一本。また少しごほごほ言いながら吸い始めた。


土方の吸ってる二本目の煙草が半文程燃え尽きた頃。コートを着ずに出てきたせいで体が冷えてきていた。少しでも寒さを凌ぐ為に両腕を抱えて胸元から体温を逃がさないようにする。すると私を待たせて悪いと思ったのだろうか。土方が着ていた上着を脱いで黙って寄こした。

ありがとう、と言って上着を羽織ろうとしたその時。店から誰か出てきたらしい。私達は店の左側にある道路の脇にいたので誰なのか直ぐに見る事は出来なかったが。


「沖田君、ごめんね」
「本当に大丈夫かぃ」


沖田総悟と彼の同期の女の子だった。名前は吉岡さん。他の新入社員の子等と違って、出来ないなりに一生懸命やろうとするし、仕事も早く覚えようとする。特に可愛いとか派手だとかもなく、ごくごく普通の女の子という印象がある。他の子と違ってそういう子だからなのか、沖田総悟は同期の女の子達の中でもその子とは仲が良かった。

初めての忘年会、段取りも分からない上に他の人間にまで気を遣わなきゃいけない。しかも専務まで来ている飲み会なのだから一番気疲れするのは誰であろう新入社員なのかもしれない。酒の加減が次第に分からなくなって大方具合が悪くなったのだろう。それを沖田総悟が連れ出してきたようだった。

吉岡さんを看てやりたい気持ちはある。だが具合の悪いところに先輩である私がいたら、また変に気を遣わせそうな気がする。それも可哀想に思う。土方が煙草を吸い終わるのを待って一緒に店の中に入ろうと、借りた上着に身を包んでじっと待つ事にした。
吉岡さんも沖田総悟も私と土方がいるのを知らないのだろう。


「沖田君、好き」


吉岡さんの震える声が聞こえてきたのは土方が丁度煙草を吸い終えて踏み消そうとした時だった。



赤い火が土方の靴によってじゅっと小さな音をたてて消されると、そこから一本の白く細い筋がなびいて、消えた。


「何だよ」
「何よ」


互いの顔を見ずに土方と私はそこにそのままでいるしかなかった。


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