十二月も半ばに入ってくると決まって行われるのは、どこの会社でも部署でも同じ、忘年会。今年も例に洩れる事はなく、日付および場所が決まると当日の用事などまるで無視されて出席を強要される。普通の飲み会であれば何とか口実を作って不参加を決め込む。でも忘年会ばかりはそうもいかない。一年の締めだという事で他の会社でも同様の年中行事は行われるし、社内の他の部署からでだって遠慮があってその日だけ仕事が回ってこなくなるからだ


たかが年末の飲み会じゃないの

面倒臭い


毎年毎年、その何時間かを如何に無難に過ごすか。そればかりを考えている。大きく息を吐くと久しぶりに長く力強い溜め息へと変わった。その大きさに自分で吐いたのにも関わらず少し驚いた。ここ最近はそんなのとは随分と縁遠い充実した日々を送っていたのだから。そして同僚の女の子からの黄色い声で、鬱陶しい現実へと引き戻された。


場所は都内のあるレストランらしい。しかも今年はプロジェクトの方も進めている関係で、部長や専務まで来るとの事。去年までは普通の居酒屋だったのに。また余計な気遣いをしなきゃいけないのかと思うと嫌で嫌で堪らない。

そして年末の忙しいこの時期に顔もよく知らない部下の飲み会に付き合わされるなんて。専務なども可哀想に思える。一体誰が得をするというのか、そんな互いに余計な気を遣わなければいけない飲み会なんて。考えただけで憂鬱そのもの。想像しただけで大きな溜め息が出るのもしょうがないとさえ思える。


その日はプロジェクトの仕事を無理に切り上げた。近藤さんや土方、山崎君や沖田総悟らメンバーと一緒に、他の皆よりも少し遅れてオフィスを出る。

会場に着く前の移動時。寒さに凍える葉の無い街路樹に、豆粒ほどの小さな発光ライト。先月までは灰色の世界に間違って存在している木立の様に思えたのだが。それが今や自らが生い茂らす葉の代わりに、人間の計らいで電飾を施されている。やっと存在価値を示しているようだった。

そして「今この時期だから」、そんな理由からなのか。鬼の首を取ったように、これでもかと流れてくるクリスマスソング。どれもこれも聞き慣れた曲ばかり。それでも毎年毎年流れているのは飽きられていないからだろう。隣を歩いていた山崎君がこっそり口ずさんでいるは顕著な証拠。凄く単純。


「へえ。好きなの?」
「あは、聞かれちゃいました?」


少し恥ずかしそうにしているのなら口ずさんだりしなきゃいいのに。でもそんな山崎君は心底このムードを楽しんでいる様だ。これ以上余計な事を言っては可哀想だと思い、それ以上は何も言わなかった。むしろ、これからの面倒な付き合いをどう乗り切るか。それに考えを集中させたい。


会場に着くとクロークがあったのでコートとバッグを預ける。クリスマス用の装飾や流れている音楽、それらが雰囲気作りに一役買っているのだろう、中はすでに盛り上がっていた。料理はビュッフェスタイルで、席は到着時間の関係から近藤さんや土方等メンバーと一緒の席だった。これなら面倒な会話だとか気の遣い方をしなくて済むと思うと自然に笑みが零れていた。

席に着くと給仕の方が冷えたビールを運んで来てくれた。瓶を持って近藤さんの元へ行き一言。


「近藤さん、いつもありがとうございます」


これは心からの感謝の言葉。近藤さんはこの数カ月、考えられない様な経験と仕事を私にさせてくれた。酒を注いで、一緒に呑んで。少しくらい羽目を外してもいいとさえ思っている。

普段の私にしてみれば絶対に思い浮かばない様な事なのだけど。今この瞬間、今を取り巻く私の状況自体が、既にあり得ない事なのだ。そう考えると羽目を外すなんて突拍子もない事を考えるのも当たり前なのかもしれない。私も山崎君と同じ、単純なのだろう。知ってか知らずか、近藤さんはいつものように、にこにこ笑いながらグラスを傾けて応えた。


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