会社を出て高杉のクラブへと向かった。タクシーから降りて入口へと向かうが、既に盛り上がっているのだろう、あまり人の出入りがない。ここは人気のクラブ、最初から皆参加したがるせいだ。中へと入るとこの時期特有の華やかな飾りつけと照明。いつも以上に非日常的な空間が広がっている。それを横目に直ぐにカウンターに行き、いつものようにXYZを頼む。そして一口ずつ啜りながら中の様子を一人で眺めていた。


「遅かったな」
「お待たせ」


言うとすぐに首筋へと高杉の唇が触れてきた。また他の女の子達への見せしめの為だろう、いつものようにうんざりしてる表情に見えたから。招待客や常連客だというのに、昔からの変わらないこの表情。私は分かるのに他の人間は分からないのだろうか、高杉が何を考えているのか。私と高杉が似てるからどうのこうのという問題ではない。嫌だと思えば思いきり表情に出るのが高杉だ、そこは私と違う。

それからしばらく二人でフロアの様子を楽しむ。頭に響くのはセンスのいい音楽。それが爆音だとしても嫌な感じはしない。逆に頭の中の物事を排除にかかってくるかの様で、何も考えずに済む。そして照明の加減で揺れる人影はそれだけで視覚を楽しませてくれる。忙しい日々の中でのこういった刺激も、たまには悪くない。


XYZも丁度三杯目を飲み終えたところだった。私の手首を取って高杉が言った


「行くぞ」
「女の子達に挨拶は?」


返事の代わりに座っていた私の腰を自分の元へと引き寄せると、いきなり私の口内へ舌を侵入させてきた。ねっとりと絡みついてくる動きに、私も大きく動かして合わせる。しばらくそうした後「これでもう何も言ってこねぇだろ」とその場に言い残し、私の手首を再び掴んでクラブを後にした。


いつものように高杉のマンションへと向かう。車中、そして部屋の中に入ってもこの前の事には一切触れてこない。あんな事に固執する様な男でもないのは分かっているので、帰ってしまったというのもあるのだが。だけどこの日の高杉のやり方はいつもと違っていた。この前の私の行動が、やはり何かしらの影響を与えたのだろうか。エレベーター内で激しく私を求めた時とは明らかに違う触れ方。まるで腫れものにでも触るかの様に、ゆっくりと時間を掛けて、愛撫が背中から始まったからだ。

そしてホルターネックに指が触れた。そのまま外されるのかと思いきや、そこで高杉の指が止まった。


「どうしたの?」
「…そのままでいろ」


私の体から離れた高杉の行動が不可解でならない。クリスマスの飾り付けもない素っ気無い薄暗い室内で、とりあえず高杉の様子を見守る事にした。すると何かを持って側に来ると「開けてみろ」と一言だけ。言われたとおりに掌に収まった細長い箱を開けてみると、中には金色に輝くプチネックレスが一連。先端には一粒のダイヤが光っている。


「…何?」
「つけてやるよ」


驚いた私の様子に満足したのだろうか。くく、と面白そうに笑いながら、つ、と手が伸びてきた。高杉に後を預けると熱い指先が私のうなじへと伸びてくる。そっと触れたかと思うと、ネックレスは既に付いていた。

外は闇。立っている私の前のガラス窓は丁度鏡の様な役割を果たしてくれていて。金色の鎖の輪と先端のダイヤがキラキラと映し出されている。この部屋に唯一のクリスマスらしさを求めるならこれだ、と言えるのかもしれない。


「ねぇ、この前のお詫びのつもり?」
「謝るつもりなんざねぇよ」


金色の繋ぎ目にとろけそうな舌先が触れたかと思うとホルターネックを外された。そして無理やり後ろを振り向かされて今度は唇へと。体を反転させると鎖をなぞる様に熱く濡れた唇が降りてくる。無機質な金属の冷たさと、温かく濡れた舌の感触。鼓動は徐々に早まっていき、下着がじんわりと濡れてくるのが分かる。それでもこの日の高杉は、ゆっくりと私を攻め続けた。



朝、隣で寝ていた高杉を起こさない様、そっと体を起こす。そしてそのまま洗面所へと向かった。鏡を見てみると首元には金色に輝くネックレス。似たようなものを持ってはいるが、何故かそれらよりも輝いて見える。そんな風に思うのは高杉が紅いうっ血痕を残さなかったせいだろうか。抱かれた後に一切の痕がないなんて、今までになかった事かもしれない。放たれている光の邪魔をしない為か、これで用を為そうとしているのか。私には分からない。聞いたところで高杉もきっと答えないだろう。

考えたってしょうがない。とりあえず寝ている高杉の枕元へと用意しておいたクリスマスプレゼントを置いてこよう。

確実なものはすぐそこにある。それは高杉の驚いた顔。私だけやられっぱなしでなるものか。

朝食を作りながらその目覚めを待つことにした。


[*前] | [次#]

/7

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -