消毒の匂いが鼻を掠め白い世界が視界を覆う。目を開けるとどうやらここは病室のようだ。私は倒れて運びこまれたらしい。まだどこかぼんやりとした頭の中を整理し、ぐるりと白以外の色を探してみる。
「あら気付いたようね」
「…ああ…猿飛…私倒れたの?」
「ええ、過労ですって」
猿飛は私の顔を覗き込むと安心したのか小さく微笑んだ。どうして猿飛がいるのか、私はどうやって病院に運びこまれたのか。聞きたい事は色々あったけど坂本さんの所に誰が私の替わりに行ったのか、それが一番聞きたい。その事を聞くと土方が私の替わりに行ってくれたようだ。丁度奴が戻って来た時で、倒れた所にも居合わせたらしい。
土方になら安心して任せられる事を聞いただけで、ほっと胸を撫で下ろした。そして後の私への事は何となく予想がつく。猿飛に話し、私を病院に連れて行くよう奴が言ってくれたのだろう。
相変わらず仕事の速い男で的確
何て土方らしい
「猿飛と土方には今度何か奢らなきゃね」
「あら。なら、沖田君にも奢ってあげることね」
「え?」
「沖田君よ、あなたを助けたのは」
あなた覚えてないの?と猿飛に言われたものの、私は何も覚えていない。猿飛によると沖田総悟は倒れた私をお姫様抱っこで受付の猿飛の所まで運び、彼が救急車を呼ぶよう指示したのだという。あの浮遊感や体に感じた熱は具合の悪さから来たものだと思っていたが、沖田総悟に抱えられた時のもののようだった。
正直自分が倒れた事、過労なんて症状はどうでもいい。一時は妊娠も頭の中をよぎったが、何となく違うであろう事は自分で分かっていた。仕事続きの上、いつもとは違う緊張感もある。その上スポーツジムにも通い、加えてこの暑さ。体なんて直ぐにおかしくなる。分かっているのに対処の仕方を怠った。体調の自己管理も出来ない自分の「妥協をしたくない性格」や「人に素直になれない性格」を考えると具合の悪さも手伝って吐き気が込み上げてきそう。
そして自分の体だけではなく、プロジェクトに携わる人達に迷惑をかけた。しかも近藤さんは心配までしてくれたのに。あの時、素直に言えばよかったのだ、そうすれば違った結果になっていたかもしれないのに。それでも近藤さんは私を責めたりしないだろう。しかも彼はあんな人だ、逆に自分を責めているかもしれない。そんな近藤さんの事を考えると戸惑いを覚えるのと同時に、彼に対し申し訳なく思った。
やっと少しだけ働きかけてきた頭の中でそれらを認識すると少し動揺して、それが顔にも出ていたらしい。猿飛が大丈夫?と声をかけてきたが、私は倦怠感からくるモヤモヤと嘔吐感のせいで、頭の中の整理が追いつかない。そしてそんな頭の中をゆっくりと何かが襲ってきた。
沖田総悟の事。沖田総悟から感じた体の熱。それにあんな体で私を抱きかかえる意外なほどの逞しさ。それらがフラッシュバックの様に私を襲ってくる。何だか彼の意外な一面をまた見た気がした。そして私は沖田総悟に初めて男の部分を感じた。
やっぱり私は疲れてるんだろうか
私らしくない
とにかく私には二、三日の療養生活が必要との事。この期間中にゆっくり頭の整理でもしよう。
白くて冷たいシーツの感触にに包まれながら、私は猿飛に「ありがとう」と礼を言い、ゆっくり瞼を閉じた。