三日後も体調は優れなかったものの、それでも私は仕事を休めない。プロジェクトメンバーの一員になれて、その仕事の一端を任されているのだ。今は大事な時期でもあるし、私の性格上休むなんて出来っこない。やっと自分でも納得してやりたい仕事をさせて頂いている。今はそれだけで十分嬉しいし楽しい。筈なのに


やっぱり休めば良かったかな…

それとも煙草減らそうかな…


具合の悪さは昼になっても治まる事がなく、むしろ酷くなってるような気すら感じる。私は食欲が湧かないのも手伝って昼食を取らずにそのままオフィスで仕事を進める事にした。人の出入りは激しいものの、勤務時間内に比べて圧倒的に人の少なくなったオフィスではまだ集中力が保てる。すると私の名を呼ぶ何やら聞き覚えのある声。声のした方を見ると近くのコーヒーショップの袋と薬局の袋を持った猿飛が立っていた。


「どうしたの?」
「土方君から具合が悪そうだからって聞いてね」


私もちょっと聞きたい事があったから、と言うと猿飛は私の隣の椅子に座った。土方が気を使ってくれたのだ。恐らくランチで外に出る前に受付にいた猿飛に話しておいたのだろう。正直驚いたけれども素直に嬉しかった。土方自らではなく猿飛にこうやって来させたのは仕事で缶詰になりつつある私に外部の人間と接触させて、それで少しでも気を紛らわせろ、と言いたいのだろう


何て奴…

ほんと、アイツらしい…


自然と零れる笑みをそのままにし猿飛が買ってきてくれたコーヒーショップの袋の中身を開けると、中には私の好きなサンドイッチが二つ。これなら食べられそうだと私の事を伺ってる猿飛を目の端で捉えながら一口頬張る。口一杯に広がる胚芽やハムの味、レタスの味、マヨネーズの味が広がるとそれだけで心も満たされるようだった。猿飛はそんな私を見ると安心した様に笑顔を浮かべ、同じ袋に入っていた自分のいつも飲んでるアイスカフェモカを一口飲んだ。

全て食べ終わり猿飛の買ってきた薬―一応何にでも効くような類の物―を2錠口に含みこくりと喉を滑らす。これでこの具合の悪さも少しは落ち着いてくれれば、と猿飛と土方の気遣いに感謝しつつ一人安堵の溜息を洩らした。すると落ち着いたせいか、不意に猿飛がここにやって来た時に言っていた言葉を思い出した。


「ねえ、聞きたい事って何?」
「あ、そうだったわね。あなた沖田君の誕生日って今月のいつか知ってる?」
「…さあ?」


受付嬢の女の子達の間で沖田総悟の事が話題になっていると前に猿飛から聞いていたので、その子達から聞くように頼まれたのだろう。猿飛自身には全く興味の無い事らしく淡々とした様子からみても分かる。しかも猿飛の頭の中には坂田の事しかない筈。こんなどうでもいい事を聞いてくる猿飛は気の毒だと思うけれど、生憎私は猿飛の力になれそうにない。私は今その事を知ったのだ。確かに仲は良いけれど普通社会人になって同僚の誕生日なんか聞きに回ったりするだろうか?学生じゃあるまいし。全く興味があるのなら直接本人に聞けばいいものを。

それにしても何故私なら知ってると思ったのだろう。沖田総悟とは確かに普通に話したり昼食を一緒に取ったりするものの、高杉との様にプライベートで会ったり、土方との様に会社帰りに呑みに行ったりなどしていないのに。


そんなに私達って仲良さそう?

沖田総悟が女の子を寄せ付けないだけでしょ?


私と特別仲がいいのではなく、沖田総悟が他の女の子達を寄せつけていない様なのは薄々気づいていた。それはあの一言に尽きるのだろう。一番最初に私を連れ出した後に最初に吐いたあの言葉。


「うぜぇ」


なるほど。確かに人の誕生日を自分で聞いて来ずに、こうやって周りに手を回してくる輩や、明らかに下心が見えてる相手につきあうのは確かに面倒だ。正直私はそこまで人と積極的に接したり触れ合うタイプじゃないので彼女達の気がしれない。猿飛も直接本人に行くタイプなので私達二人とは縁のないタイプの人達である事に違いない。

沖田総悟もどちらかと言えば私達二人のタイプだろう。しかし土方や近藤さんとは昔からの付き合いであるだろうから、随分と仲はいいように思う。あまり積極的にいかなくても分かりあえる関係、駆け引きなんかいらない関係。それはまさしく私や猿飛の関係の様に。それこそが本当の人と人との付き合いだと思う。ちらりと猿飛の方を見ると、猿飛は逆に私の方をじっと見ていた。


「どう?少しは落ち着いた?」
「うん。お陰さまで」


既に沖田総悟の話題には触れずに私の体を気遣ってくれる。

こういうところは猿飛らしい。ダメだと分かったら直ぐに身を引くのが

なのに何故坂田にはそうはいかないのかは甚だ疑問であるのだが。でも私は猿飛のこういうサバサバした性格も好きだったりするし私も似たタイプなのだと改めて思い知らされた。


昼休み時間ももうすぐ終わりという時刻。段々とオフィスにも人が戻って来た。お昼に出ていた土方や近藤さん、山崎君、そして沖田総悟も姿を表した。私は彼等の姿を確認して改めて猿飛に礼を言った。午後からの仕事の大変さを彼等を見る事によって思い起こされたのだ。そして余計猿飛と土方の気遣いが嬉しくてたまらなかった。土方も私達を見るなりいつものようにフッとだけ小さく笑う。そして私も土方にいつものように笑いかける。

私達にはこれで十分。回りくどい言葉もいらなければ手まわしもいらない。こんな仲間と一緒に過ごせて仕事も出来て、私は今幸せなのかもしれない。そして近くにやって来た沖田総悟に初めて自分からガムをねだり、その味を噛みしめた。

さあ、午後からの仕事も彼等と一緒だと思えれば具合の悪さななんて気にならないだろう。しばらく煙草を控えてたせいもあってか、一瞬だけれども口内だけでなく頭の中も心の内も、そのガムが一掃してくれた気がした。


そして包み紙に包んだガムを捨てる。高杉の腕の中にいた時に見たあの紙に。


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